久しぶりに外を見上げたら、星が何時もよりはっきり見えた。
あー、それは当たり前か――。
だって、ここには人口の光なんてほとんどないし、あっても街灯くらいだ。
隣町にはビルも建ってるし、こうは見れないだろうけど、ここはまだ良く、見える。

そんな変わらない、この場所が何となく好きだった。
いや、好きだ――。
はぁ、と小さく息を吐くと白く残ってすぐ消える。

そう言えば、二、三年前はこの空を毎日見ていたんだ――。
そう考えると、少し惜しい事をしたかもしれない。



我が人生  ―将来―



外はもう真っ暗で、先ほどまでクタクタに疲れながら自転車をこいでいる中学生達はもういない。
やっぱり、帰ってくる時期を間違えたかもしれない。
まだこちらの学校はまだ、休みじゃなかったりするみたいだ。
てか、うちの学校が変な所で三連休なんて作るのが問題だったりするかもしれないけれど――。


「幸雄っ」

「お、亜美。で、何処に行くんだ」

「んー、ちょっとね…ついて来いよ」

「はいはい」


亜美は僕の手を引いて、歩き出す。
外は真っ暗で、人気もまったくない。
けれどそれが、まるで僕たち二人の貸切みたいに思えて、少しワクワクしてたりした。


「あーアンナちゃんとモチは?」

「んー、ケンちゃんがちゃんと送ってったって言ってたよ。それに今は携帯で話してると思う」

「そっか。よかったかもね、紹介して」

「そだね」


正直、心の底からそう思う。
誰かを助けるのは良い事だ。
まぁ、それは良い事をした、って思うためじゃなくて、自分の気持ちも嬉しくなれるから。


「そいや、さ――」

「ん?」

「幸雄、好きな人でも出来た?」

「…は?」


亜美が突然、ワケの分からない事を言ってきた。


「好きな人。恋愛、逢引する相手」

「あー、そんなのいるワケないだろ。僕に」


苦笑しながら答える。


「ふーん」


亜美はそう言って、興味がなさそうに先を歩いていった。






「ひっさしぶりに来たなー」


僕が今目にしているのは、僕が通っていた中学校だった。
約三年ぶりにここを訪れた。
先生も帰ったようなので、学校は真っ暗だった。
灯りは一つも灯っていない。


「よっと」


懐かしんでいる僕を傍に、亜美は校門を潜り抜けた。
て、何をしてるんだ――。


「ほら、幸雄も来いよ」

「は――?」


学校に忍び込んで何をしろと?


「まぁ、いいじゃん」

「……まぁ、いいけど」


僕はそう言って、音をたてないように門を乗り越える。
亜美は門の間を潜り抜けられたけど、僕は出来なかった。
そう考えると、亜美って僕より細いんだな。
やっぱり、女の子なんだな――。






リノリウムの廊下をカツンカツンと歩く。
てか、今でもこの学校は壊れた窓の鍵を直していないのか。
まぁ、この学校も入学してくる生徒も少なくなっているから、割と厳しいんだろう。
それに、転校する生徒も増えているみたいだ。


「三年経ってるのに、全然変わってないな」

「そだな。てか、この学校だけ時間が止まってるみたいだ」


僕の言葉に亜美は同意する。
壁の傷は何時までも残っていて――。
自分がワックス掛けをした教室は、滑りそうな程の艶を出していた。
あー、確かこの時期にワックス掛けをしてたから、僕の後輩がやっているのだろう。
そう考えると、学校ってのは毎日が同じだと思えてしまう。


「そう言えば、亜美は三年生の時は何組だっけ?」

「んー、3組だったかな」

「そうなんだ。それなら僕と同じだね」


一番思い出深かったのは三年生だった。
確かに、高校受験とかでみんなと話す時間なんてそんなになかった――。
けれど、いい加減に済まそうと思った学園祭は、結局どのクラスよりも真剣に取り組んだと思う。
お化け屋敷をやった――。
確か図工室を借りて、マットを敷き詰めて――。
被り物が売ってる店に行ったりして、部屋を真っ暗にして、音楽もいれたりして――。
自分で言っちゃなんだけど、自分たちでは上手く出来てたと思う。

あーそう言えば亜美も見に来たな。
だけど、すっごく怖がって前に進めなかった記憶がある。
その姿を思い出すと笑ってしまった――。


「何笑ってるんだ、幸雄」

「別に――」


少し意味ありげに言ってみる。
ちょうど、図工室の前を通った所でちょっと立ち止まって見せた――。


「――っ」


亜美も思い出したのか、息を呑んだ。

亜美は意地を張る奴だから、結局前へ進めなくなった、としても諦めなかった。
まぁでも、なんとかクリア出来たんだけど――僕が一緒に行ったし。
自分たちが作った物だから、自分では怖くともなんともなかった。
けれど、亜美の怖がりようは面白くて、少し嬉しかった――。
それと、この子も普通に女の子なのだと、判った。


「アレは思い出すな」

「はは、イヤだよ。アレはアレで大切な思い出だし」

「むぅ――」

「でもさ、あの頃は僕って亜美の事を男の子みたいに見てたんだよなぁ」

「?」

「だってさ、髪の毛も短かったし、行動が男だったからね」


女の子だけれど、行動が男ぽかったから男の子として扱っていた。


「ふん、どうせ俺は女として見られてないよ」

「あはは……でも、今は女の子だと思う」


今の亜美は女の子なのだ。
髪の毛が伸びたからじゃない。
容姿がどうって事じゃない。
仕草がどうって訳じゃない。

彼女は女の子なんだ――。






「おー、まだ屋上って立ち入り禁止になってないんだ」

「そりゃー、こんないい場所を立ち入り禁止にするなんて勿体無いだろ?」

「あはは、そうだね」


フェンスに寄りかかって景色を見る。
あー、やっぱり変わらないな――。


「そいやさ、うちの学校ってバカップルってのがヤケにいなかったか?」

「そう?僕はそう言うのに疎いから気づかなかったなぁ」

「ふーん。ま、そんなのがいた所為で屋上は放課後使用禁止状態だったわけだ、独り者にとっては」

「あー、まぁ、僕も放課後には行かなかったなぁ」


もう一度しっかり景色を眺める。
夕日が沈む様子も、ここならしっかりと見えるだろう。
単純かもしれないけれど、ここで何かそういう事をされたら僕だって――。


「なぁ、幸雄」

「――なに?」

「その、大学はどうするんだ?こっちに戻ってくるのか?」

「んー…」


志望する大学ってのを見つけられない僕――。
ただ、上手く何処かに入れればいい、と思っていたりする。
それだけの成績はあるんだし、行けない所はないと思ってたり――。
自分が何をやりたいかも解らない、ふらふらと浮く存在だ。


「まだ、何にも言えないよ。笑っちゃうかもしれないけど、何にも決まってないし」


自嘲的な笑いをする、僕。
亜美の一言は、現実に戻す何かがあった――。


「そっか――」

「うん、そう。――自分の人生、自分で決める、って言うけど決まらないのが現実だ」


そう、ドラマでは俺の生き方は自分で決める、なんてお決まりな台詞がある。
けれど、そんなのは本当にやりたい事が見つかった人間にしか言えない言葉だ。
少なくとも僕には言えない――。

だって、そんなのは無理だから――。

どんなに頭が良くたって――――僕は大人になったらパイロットになりたい。
そんな子供のような夢を持った人の方が、生きてるって感じがする。
何が出来る、じゃないんだ。
何がしたい、が肝心なんだと思う。

何が出来る、は何がしたい、を補助する物でしかない。
何が出来る、は夢じゃないし、自分にとって当たり前の事だ。
そんなのは、なりたい物じゃない――。
僕には、そのなりたい物がない――。


「ふーん」


亜美は仕方ないな、と言う感じで頷いた。
まぁ、周りの人から見ればそんな感じだろう。


「じゃあさ、俺が幸雄の未来を決めてやろうか?」

「――ああ、そうしてくれると楽、かな」


少し苦笑しながら、僕は頷いた。
まぁ、なんでもいいかな――。


「よし。それじゃあ、発表しよう。幸雄の将来なるものは――」






僕は亜美の言葉に、思わず笑ってしまった。
けれど、それに納得して頷いてしまった自分がいた。
悪くない、それが僕の答えだったりする――
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送