てるてる坊主 By KEN
ザー…。 雨が降っている…。 空には、重い黒い雲が浮かんでいた。 青い空は見えない…。 今日は…もう、やみそうにもない。 雨の日は、家でゆっくりするに限る。 雨の音って、何か心を静かにさせる作用があると思う。 静かだし、本を読むときには、一番のBGMだ。 だけど、ぼくの首が保てばの問題だけど…。 「ん…アスカ?」 ずっと居間にいたけど、アスカが何時の間にかいた。 よっぽど、ぼくが本に集中していたみたいだ。 アスカは、窓の外を見ていた。 「読み終わったの?」 「いや…流石にこんな分厚い本、一日じゃ終わらないよ」 ぼくが読んでいたのはちょっとした推理小説。 何シリーズもある、人気作品で、一冊一冊がとても長い。 でも、この作家は人にこの本を「読ます」力がある。 少なくとも、ぼくはそう思う。 「それにしても…どうしたの?」 「ん…シンジは…雨って好き?」 ぼくは外を見つめた。 相変わらず、外は土砂降り…。 「ん〜…嫌いじゃないと思う。…だってさ、外が静かになるじゃん」 「そうね…」 「アスカはどうなの?」 「あたし?」 アスカは、少し表情を硬くして…。 「好きじゃない」 と、言った。 確かに、アスカはお日様のように感じる。 だから、対照的な天気…雨は嫌いだと納得できる。 「この妙な静けさと…気分が滅入る…この音」 ザーっと幾筋もの雨が、地面についた時の音。 「…そっか…」 ぼくは、立ち上がってアスカの方へと行く。 隣に立って、外の風景を見る。 外は、少し霞んでいた。 「音…か…じゃあさ、アスカ」 「…ん?」 「お風呂はどうなの?シャワーのお湯だって、こんな音でしょ?」 「まぁ…確かにそうなんだけどね…」 アスカは少し、難しい顔をした。 「強いて言えば、気持ちの問題でしょうね」 「気持ちの…問題…」 「雨の音は冷たい音から奏でられる…シャワーはお湯…温かい音から奏でられるもの…」 確かに…そうかもしれない。 人間は、温かいものに惹かれる習性みたいなものがある。 それは、きっと…温もりを…優しさを求めているから。 「……紅茶でも煎れようか?」 「そうね…お願いするわ」 コポコポコポ…。 紅茶をティーカップに注ぐ。 それを、目の前に座っているアスカの前に差し出す。 「どうぞ」 「ありがと…」 アスカは紅茶を一口飲む。 「美味しい…」 「そう?…まぁ、ティーバッグだけどね」 「いいわよ、あんたって結構凝るじゃん」 確かにカップは温かくしたり…。 ティーポットも温かくしてからお湯とティーバッグを入れる。 テレビの見よう見まねだし、そんなに変わるとは思えない。 「そう…?そう言ってくれるんなら、ありがとう」 「お礼を言うのはこっち。ありがと、シンジ」 アスカはぼくに笑顔を向けてくれる。 何となくだけど、…ここに太陽があるなって思ってしまった。 「…まだ、降ってるみたいね…」 「……そうだね」 外をまた見る。 …その時、ぼくは頭に何かを閃かせた。 「…ねぇ、てるてる坊主でもつくってみない?」 「てるてる…坊主?」 「うん。…日本だと雨が降った時、窓のとこに吊るしておく…人形かな」 「ふ〜ん…でも、それでどうなるの?」 「晴れますようにって言う、願掛けかな?」 「…非科学的ねぇ…」 「あはは…でも、案外効くんだよ」 案外そう思う。 ちなみに、ぼくはてるてる坊主を逆さまに吊るしたことがある。 おかげで、雲一つない晴れだったのが、すっごい分厚い雲の雨になった。 まぁ、雨を晴れにはしてないので、実際のてるてる坊主の効き目は分からないけど。 「そうね…教えてくれる?」 「うん。…じゃあ、一緒につくろ」 「準備できたよ」 「え…白い布とペーパータオルと細い紐とサインペン?…これだけなの?」 「うん。じゃあ、まずはペーパータオルを丸めて」 ぼくはペーパータオルを球状に丸めだした。 アスカも不思議そうにぼくの真似をする。 それを見て、少し苦笑した。 確かに…不思議な人形だよなぁ…てるてる坊主って。 「それで、丸めたペーパータオルを布の中央に置いて」 「こ、こう?」 「そう…で、ここをこうして…」 布で軽く包むようにする。 そして、ペーパータオルがある部分を持って二回くらい捻る。 「それで、…紐で止める。あ、結ぶ時片方を長くしておいて」 「わ、わかったわよ」 アスカは、慣れてないこともあってか、少しぎこちなかった。 「縛って……っと…出来た?」 「うん」 「じゃあ、今度は顔を描こうね」 「顔…って、どんな?」 「どんな奴でもいいよ、アスカが直感で思いつく奴でいいよ」 と、言ってぼくはサインペンでてるてる坊主に顔を描き始めた。 ぼくは…こんな顔を描こうって決めていた…。 「出来た?」 「ええ。…シンジはどんなの?」 「ん〜こんなの」 そう言って…ぼくはアスカにてるてる坊主を見せた。 アスカはそれを見て…。 「…これって…あたし?」 「そうだよ」 「そうだよって!なんで、あたしの顔で!怒ってるのよ!」 そう…。 てるてる坊主の顔はアスカで、怒っていた。 なんていうか、鬼のような形相…で。 「い、いや…鬼のような形相で雨雲を睨みつけているって表現したかったんだけど…」 「もう!」 「そ、それより…アスカはどうなのさ?」 「あたし?…ほら、これ!」 ぼくはアスカのつくったてるてる坊主を見る。 そこには、ぼくの顔が描いてあった。 思わず、頬がほころんでしまった。 「あんたって…笑顔でなんでも解決できそうじゃん。だから、雨雲もあんたの笑顔で…退散…なんてね…」 「ははは…じゃあ、最強コンビだね」 「む!あたしのも笑顔にしなさいよ!あたしの天使のような笑顔で雨雲を遠くに追いやるのよ!」 「う〜ん…ぼくにだけじゃ…駄目?」 そんな風に聞いてみると…。 アスカは一瞬、何を言われたのかわかってなかった。 だが、言葉の意味が分かって、アスカは顔を赤くする。 「な、なに言ってんの、あんた馬鹿ぁ!?」 「駄目?」 「…い、いいわよ!」 アスカはそっぽを向いてそう言った。 「こうやって…カーテンの金具に縛って…」 「なんか…自殺者みたいね…」 「あ、そう見えるかもね…でも、まぁ…これが飾る方法だしね」 「ふ〜ん」 縛り終えると、てるてる坊主が外を見つめていた。 「雨…やむかしら?」 「どう…だろう…?…だったら、いいけど…」 ぼくとアスカはてるてる坊主を見つめていた。 すると、アスカは「あっ」っと声をあげた。 「…どうしたの?」 「うぅん…ママと一緒に住んでて、雨が降ってた時…ママがこれをつくってたなって…今思い出したの」 「ふ〜ん…」 「それで…ママが鼻歌を歌ってたんだ……なんて歌だろう?」 「どんな歌?」 「時々…てるてる坊主って言葉が入ってた気がする」 「そっか…」 ぼくは少し気分が暗くなった。 きっと、アスカのお母さんは知らないんだと思う。 全部の歌詞を…。 「シンジって…知ってる?」 「まぁ…ね」 「?…知ってるなら、歌ってくれない?」 「…いいけど…気分悪くなるよ?」 「…?」 「てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ〜 いつかの夢の空のよに 晴れたら金の鈴あげよ〜 てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ 私のねがいを聞いたなら あまいお酒もたんと飲ましょ〜」 ぼくは、続きを歌うのを躊躇った…。 なんとなく、悲しい感じがしたから。 「終わり?」 「うぅん…続きあるよ…」 そう言って、深呼吸をする。 「てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ それでも曇って泣いてたら そなたの首をチョンと切るぞ〜」 歌い終わって…アスカは気まずそうな顔をする。 ぼくもきっと…そんな顔だ。 「なんか…あたし達みたいね…」 「…そうだね…」 ぼく達は…使徒という雨を晴れするにするためのてるてる坊主だったんだ。 やっぱり、ぼく達が使徒を倒すとみんな褒めてくれた。 もし…倒せなかったら歌通りに首を切られていたと思う。 「ママは…そんな歌を歌ってたの?」 「うぅん…きっと、知らなかったんだと思う。最初のてるてる坊主、てる坊主〜の部分は有名なんだ」 「…じゃあ、なんでシンジは知ってるの?」 「子供の頃に、子供番組を見て…頭の中から離れなかったって言うか…印象的だったんだと思う」 子供の時、思ったのが…一言で可愛そう。 ぼくは幼心ながらにそう思った。 死ぬとか、そういうんじゃなくて…。 悲しく思ったんだ…。 「あたしさ…今、思ったんだ…きっと、ママはてるてる坊主だって…いらなくなったから…」 「……」 「ねぇ…シンジ…あたしも、いらなくなったら…?」 「大丈夫だよ…ぼくが、そんな事はさせないから」 ぼくは、アスカをそっと抱きしめる。 少し、アスカは震えていた。 「ぼくにとって、ずっと大事にしていたいてるてる坊主だから…」 「うん」 「ぼくの心を晴れにしてくれるには、アスカがいなくちゃいけないから」 「うん…あたしもそうよ」 「だから…お互い、お互いをいらなくなる事なんてないんだ」 「うん」 しばらく経って、アスカは少し恥ずかしそうにぼくから離れた。 そして、ぼくの顔を見つめた。 「…シンジは…明日、晴れじゃなかったら、あのてるてる坊主…どうするの?」 「ぼくは……供養してあげる…頑張ってくれたね…って褒めてあげる」 「…そっか…どうやるの?」 「褒めてあげて…川に流してあげるんだ…それが、てるてる坊主の供養」 「そうなんだ…晴れにしてくれなくても?」 「うん…だって、てるてる坊主だって頑張ってくれたんだろうし…」 「そうね…じゃあ、明日行きましょうか?」 「うん」 ぼくは、少し笑顔をつくった。 「…よし、じゃあ、ご飯つくりましょう!」 「そうだね…早くしないとミサトさん、帰ってきちゃうしね」 「シンちゃ〜ん、なんだか懐かしい事するわね〜」 ミサトさんがちょうど、夕飯の時間に帰ってきた。 なんか、タイミングをはかっていたみたいだった。 ミサトさんは、お決まりの銘柄のビールを飲みながら窓の方を指差していた。 「ええ。やっぱり…雨は憂鬱になりますからね」 「それにしても、アスカの顔、そっくりねぇ」 「はは、そうですか?」 「むぅ!」 アスカが少し怒る。 ちょっと、それを無視して。 「それだけ、シンちゃんがアスカの事を見てるって事なんだろうけどね」 「ミサトさんは、どんな顔を描いたんですか?」 「そうよ、ミサトもなんか描いたんでしょ?」 「あたし?あたしは、普通に簡単な笑顔だったわよ」 「なんだっ、面白くない」 「ちょっとねぇ…あんまりてるてる坊主には凝らないわよ。それより、明日、何処か行く?ちょうど、あたし休みだし」 「いいわ、どうせミサトなんて昼間まで寝てるんだし、半日つぶれちゃうわよ」 「むぅ…」 「あたしはシンジと出かけるから、どうぞ加持さんとごゆっくり」 アスカは意味深な笑みで言う。 「へぇ…シンちゃんとデート?」 ミサトさんの方も負けていない。 「ええ。てるてる坊主の供養しにね」 「…そう」 「ミサトさん…」 「なに、シンちゃん?」 「人類を脅かす雨から守ったてるてる坊主は、ちゃんと供養してくれますか?」 冗談めかして言う。 だけど、少し本気だった。 「ええ…とっても、大事に…してる…」 「そうですか…これからも、よろしくお願いします」 「そうよ、ミサト!しないと、また雨降らすからね!」 「ええ、約束するわ」 ぼくとアスカはミサトさんに笑顔を向けた。 ミサトさんもぼく達に笑顔を見せる。 窓を見た。 二つのてるてる坊主がぼく達を見つめていた。 そして…雨もあがっていた…。 FIN 後書き 久しぶりのリクエストでした。 かと言って…これがリクエスト通りかは分かりません(汗 ちなみに、てるてる坊主の歌の歌詞を最近知りました。 なんとなく、悲しかったので心に残りました。 役立たずだったら捨てられるってのが、私にとって、許せなかったので。 みなさん、てるてる坊主はちゃんと供養しましょう。 感想はこちらか、掲示板によろしくお願いします。
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