世界が滅ぶ時 第14話 By KEN
「ふぅ…」 身体の中に張り詰めた空気を抜く。 少し、辺りを見回す。 机、コンピューター、何かの走り書きを書いたメモ…。 それ以外、何もない部屋。 私以外、ここには誰もいない。 時々、部下が資料やら何やらを持ってくるだけしか、人と会う機会がない。 この部屋は、ある意味私の城だ。 大窓もついていて、空気の入れ替えも出来る。 食料もなくなったら補給しにくる係りもいる。 「碇…」 何時の間にか、誰か入ってきたようだ。 一人の老人が私の前に立っていた。 「冬月、何か用か…?」 「最近、無理しすぎではないか?もうお前一人の身体じゃないんだぞ」 「分かっている。だが、一刻を争うときだ。ゆとりなどないよ」 冬月を見る視線を意識的に強くする。 長年の付き合いだ、私の心の中は見透かされているだろう。 「…明日は帰る」 「ああ。信士君と麗君が寂しがるぞ」 「信士は高校のために一人暮らしを始めました。麗も夏休みはそこで過ごすそうです」 そう言うと冬月は驚いた表情を浮かべた。 「そうか…信士君も高校生か」 「月日が流れるのは早いものです」 「そうだな」 だが、私はまったく進んでいない。 彼女が私の前からいなくなってから。 たった、一つの支えは私の子供達が変わらないこと。 私を必要として、愛してくれている。 優しく、思いやりがある。 彼女に似たのだろう。 あの二人は、自慢の子供達だ…。 「はぁ…」 小さく溜息を吐く。 少し気分が重い。 慣れない事はしない方がよかった。 都会の店通りは人が多い。 歩く気力も出なくなる。 …元々、気分が重かった。 麗ちゃんの言葉はとても重たくて、いい加減だった私を苦しめる。 私は碇君が好きだったの? 惣流さんと碇君が楽しそうに話していると、何となく胸が苦しかった。 仕方ないと思った、そうしないと楽になれないから。 子供の頃、私は一人だった。 一人じゃなくしてくれたのは、碇君だった。 私が、碇君を無視していても、私を気遣ってくれた。 放課後は、私が帰るまで一緒に残っていてくれた。 クラスのみんなに上履きを隠されたときも、一緒に探してくれた。 画鋲が上履きに仕掛けられていた時も、すぐ碇君は察して保健室に連れてかれた…。 だけど、今はその原因をつくった連中もいない。 だから、碇君がいなくても大丈夫だと思った…。 「はぁ…」 それに、気になる人物も増えてしまった。 私と同じ紅い瞳をしていた。 銀色の髪の毛…。 白い肌…。 渚君…。 彼は、碇君と一緒なのか…違うのか…分からない。 「や、綾波さん。こんな所で珍しいね」 「―っ」 いきなり誰かに肩を叩かれた。 意識を覚醒させて、すぐさま後ろの方を振り向く。 そこには、透き通るような笑顔の彼がいた。 「渚君…」 胸が高鳴った…。 悟られては、いけない。 「どうしたの?」 「いや、君がぼうっとしていたからね。知らない人にナンパされるより、知っている人の方がいいだろ?」 「相手によるわ」 「はは…そうだね。まぁ、駄目もとでさ…これからお茶でもしないかい?」 「……ええ、構わないわ」 嬉しかったけれど、どう返事すればいいか分からなかった。 「ここのコーヒーは中々いいよ。綾波さんはコーヒー大丈夫?」 「…あんまり飲まないけれど…大丈夫」 渚君の連れてきてくれた場所は、コーヒーが売りの喫茶店みたい。 私は紅茶を主に飲むから、コーヒーの味は分からなかった。 だから、彼の好みに合うかは分からない。 「そうかい?まぁ…駄目なら別のにすればいいよ」 「分かったわ。でも、何を頼めばいいのか分からないわ」 「そうだねぇ…甘めの奴がいいかもね」 「ええ…そうしてくれると嬉しいわ」 渚君はウェイトレスが来ると、手早くオーダーした。 確か、私のはカプチーノとか言っていた気がする。 「彼女に、今日のケーキを一つ」 最後にそう言ったので驚いた。 「ちょ、渚君…」 「二個にするかい?」 「数の問題じゃなくて…」 「気にすることはないさ、今日は臨時収入があったからね。奢りだよ」 渚君はにこやかにそう言った。 でも、それはいけないような気がした。 私は…彼の友達の一人でしかいないのだから…。 そう言う事は、もっと深い関係の人とでないと駄目だ。 「渚君…貴方が奢らないといけないのは、私じゃないわ」 「……惣流さんと信士君って本当に仲がいいよね」 何気ない話に切り替えられた…。 そう言って、運ばれてきたコーヒーを一口飲み…。 私もそれに習った。 口の中に僅かな甘味、酸味、苦味を味わう。 少し熱いけど…美味しい…。 「……」 「相思相愛って奴かな…?実を言うと、惣流さんがあんなに夢中になってるって事は今までなかったんだ」 「そうなの?」 「うん。君も知ってるだろう?彼女っていささか高慢ちきじゃないか。だから、どんな男子にも弱味を見せないし完璧であろうとしていた」 「そうね…」 「だけど、今は違う。信士君にだけは自分の弱い所も素直に見せている」 「……」 「昔からの知り合いだけれど…あんな彼女を見たことがなかった。少し、悔しいよ」 だけど、貴方は綺麗な笑顔をしていた。 そして、とても嬉しそうだ。 「なんで…そんなに笑顔なの?」 「嬉しいからだよ。大切な友達だしね。まぁ、ぼくじゃあ…彼女の本質を知れなかったって不甲斐なさはあるけどね」 「………」 私は何も言えなかった。 彼は、惣流さんの事が好きだったのだと思う。 だけど、自分じゃ彼女をわかってあげれないから碇君に任せた…。 ただ、友達としてのスタンスを保ったんだ…。 好きなのに…。 勇気があるとかないとかじゃ、違う次元のものだ。 「君は信士君が好きなのかい?」 「……何を言うのよ」 「もし、それが本当なら…ぼくは応援しないからね。友人を応援したいのと、もっと別な理由がある」 「……」 「ぼくは、君が好きだからね」 私はそう言われて…。 ドンっと重い衝撃を頭に受けた。 本当に、意識を消すくらいの衝撃だ…。 だけど、何とか意識を保って…。 「私、帰るから…」 そう言って、席から立ち上がって逃げるように店を出て行った。 店を出て…ふと、壁ガラスを見たら…渚君は寂しそうに私を見つめていた。 私は、心の中で謝っていた…。 そして、あの声が聞こえた。 …レイちゃんは、どっちが好きなの?… 私より年下で、私より大人な彼女の声が…。 続く 後書き 久しぶりに書くと…。 また、作風が_| ̄|○ レイが、何かやらかしそうです。 久しぶりにゲンドウが現れたのは嬉しいですがっw
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