桜。

By KEN







「サクラ、士郎が呼んでましたよ」


居間でぼうっとしているとライダーが何時の間にか、私の後ろにいた。
先程淹れたお茶も冷めている。
ホント、最近時間が流れるのは早い。
前までは一日が48時間以上や、もっと長く感じたのに…。
嫌な事が多かったから、時間の流れが遅く感じたんだと思う。

あ、でも違うか…。
嫌な事が、ホントに嫌な事になると時間が流れるのも早い。
だから、そう考えると自然と幸せになれる有意義な時間と最悪に嫌な時間は一緒なのかもしれない。
ただ、性質が反対なだけで。


「先輩が?」

「はい。縁側にいます」

「そうなんだ。わかった…すぐに行きます」

「ええ。私は、少し外に出てきます」


ライダーはそう言うと、今から出て行く。
ふと、私は思ったので、それをライダーに伝える。


「食事は程々にしてよ」

「…たまには、穀物ではなく肉類が食べたくなる時があるものですよ」


そう言って出て行った。
ホントに、いくら協会が何も言わないからって調子に乗っちゃって…。
っと…私もそろそろ先輩の所に行かなくちゃ。












そう言えば、もうどれくらい経つんだろう…。
私が苦しみから解放されて…。
いろんな人がいなくなった…。
街の人々…兄さん…何時の間にか認めてしまった、祖父と呼んでいた物。
私の幸せは、その人たちの命から成り立っている。
人の命を犠牲にして、私は幸せを手にした。
それは、本当はいけない事で、私は幸せになっていけない筈なのに…。
だけど、それでも…私は、幸せになってしまった。

先輩がいるから…。

先輩は、自分の信念を捨ててまで、私を救ってくれた。
初めて強く叱ってくれた。
だけど、私はあの人に何が出来ているのか、未だにわからない。

正義の味方になるのが、先輩の夢だった。
今でも、きっとそうだ…そう、なりたいんだと思う。
だけど、今は…私だけの正義の味方。
この世の全ての悪…それと同化した私の味方…。
周りから見れば、悪だ。
正義の味方なんて、到底思われない。
私は、それが耐えれなくて、辛くて…倒れそうだった。
いくら、その悪から解放されても…結局は、悪なんだから。

この悪に染まった身体…心…。

きっと…純白に戻る事はない。
そして、私の色が先輩を染めつつある事にも気づいた。
だから、少しでも変わらないといけないと思った。
少しでも少しでも…綺麗な自分を…まだ、綺麗な部分を先輩に見せたい。
唯一残っている先輩への、心の底から純な意思を、態度を…先輩には見せたい。












「先輩」

「よっ」


縁側に先輩は座っていた。
先輩は、もう先輩じゃない。
私と同級生になった。
私が、教室で先輩の事をそう呼ぶと、先輩は照れたように辺りを見回した。
私も『あっ』と気づいて、慌てて…衛宮さん…と言った。
それが、少し照れくさかった。

だけど、昔から先輩と呼んできたから…それは、直らなくて…。
最終的には、先輩もみんなも受け入れてくれた。
少し、先輩には恥かしい思いをさせてしまったかもしれない。


「どうしたんですか?」

「んぅ…?いや、今日は桜が綺麗だと思ってね」

「ぇっ?……あ、そ、そうですね」


思わず、私の事を言ってくれているのかと思った。
だけど、先輩の視線は桜の木と花に向けられていた。
私は、早とちりに少し照れて、そっと先輩の隣に座った。
今だと、割と意識せずにそれが出来た。
ここに…同居し始めた頃は、本当に意識してしまっていた。
隣にいると…近くにいると…頭が熱くなって意識が朦朧としていた。


「…桜も綺麗だ」

「……っ」


不意打ちにも、少し…本当に少しは慣れたつもりだった。
きっと、先輩は意識してないんだし…。
心の思った事を、口に出している。


「せ、先輩ぃ」

「あ、悪い…驚かせちゃったな」


先輩は、にこりと笑顔を私に向ける。
その笑顔が、私は好きで好きで堪らない。


「もうっ…お世辞なんか言っても駄目ですよ」

「ん〜嘘じゃないんだけどな…。っと、ちょっと待っててくれ」


先輩をそう言うと、居間の方へと歩いていった。
きっと、先輩はお茶とお茶請けでも持って来るんだと思う。
そう自然に思える自分が、可笑しくて堪らなかった。

少し目を閉じる。

先輩が、私のもとに帰ってきてくれた時を思い出す。
アインツベルン…イリヤスフィールの起こした魔法で先輩はこの世に復活できた。
そして、もうこの世に彼女はいない。
それを聞いて、私は何か悔しいような、悲しいような、そして感謝のような複雑な感情を彼女に抱いていた。
先輩を助けてくれた、感謝の念。
自分が犯した罪の犠牲者への悲しみ…。
私は、何も出来なかった事への悔しさ…。

そんなのが、ぐちゃぐちゃと混ざっていた。

暫くは、先輩の顔を見れなかった。
イリヤスフィールは、先輩の姉…となる人物と聞いた。
そこで、また自責の念がわいた…。
自分は、何人の人を犠牲にすればいいのかと心底思った。
いっそ…みんなが私を見限ってくれれば、どんなにいいかと感じた。

私は弱いんだ…罪に押し潰された姿が似合うとさえも思った。

だけど…そんなのは、逃げであって…。
ライダー、姉さん、先輩にたくさん叱られた。
みんなから平手を一発ずつ貰った…。
あ、先輩からは二発くらい貰ったな…。
だけど…みんなのおかげで私は、罪に押し潰されずにすんだ…。
罪に押し潰されてしまうのは、ただ逃げているだけだから。
自分と向き合って…自分が納得する罪の償いしか出来ない。
魔術の世界は、表の世界とはかけ離れているから…。
全てが、表から見れば異常であって、それは表の世界からは理解されない。
きっと、私が警察に行っても、ただ笑い飛ばされて終了だろう。
だから、考えなくちゃいけない。












「お待たせ」


先輩が、お盆にお茶とお団子を乗せて帰って来た。
ピンク、白、緑色の三色の花見団子だった。
それを見て、私は少し笑った。


「お花見ですか?」

「ああ。天気もいいしな」


そう言って、私にお茶を手渡す。
重量感のある湯のみを両手で持つ。
一口、お茶を飲む。
そして、一息吐く…。


「春ですね」

「春だな」


外は、とてもうららかとしていた。
暖かく、新しい緑が芽吹いている。
それに先駆けて、桜が満開となっていた。


「あ、このお団子…手作りですか?」

「ああ。せめて和の料理は、桜に差をつけないとな」

「むぅ、いいですよ。今から、このお団子食べて何が入っているか分析しちゃいますから」


お互い笑い合ってそう言う。
本当に、口の中に広がるお団子の甘味が美味しかった。
それを一口、一口と確かめながら食べた。


「そう言えば、もうすぐ姉さんが帰ってきますね」

「あぁ、そうだな。今から献立考え…いや、普通でいいか」

「意地っ張りですよ」

「家族だろ?特別な事しなくてもいいじゃないか」


でも、きっと先輩は、その当日になるとたくさん食料を買って来るんだと思う。
意地っ張りですからね、先輩は。


「あ、何笑ってるんだよ」

「なんでもないですよー」


私は今、幸せだ…。
これからを頑張って生きていこう、そう思いながら私は頑張っている。
私の愛しい人(せんぱい)と一緒に…。


Fin.


後書き

本編とエピローグとの間の話を書いてみました。
桜は好きです。
自分が、嫌な奴だとわかっていますから。
嫌な奴と言ったら、言葉が悪いかもしれませんが、言うなれば弱さとか醜さを知っています。
私は彼女が一番、肉を持ったキャラだと思いました。
やっぱり、人を好きなり、その人を誰に渡さないと言う独占欲…そして、それに自己嫌悪する彼女の心の中に胸を打ちました。
まだ、問題は山積みの彼女達ですけど、きっと幸せだと思います。
ちゃんと、罪を償えると思っています。
私は、あの二人がとても大好きです。

KEN
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