思い出

By KEN






「明日一日、士郎を借りるからね」


いきなり姉さんが、こんな事を言ってきた。
思わず唖然となってしまう。
本当に、帰って来たばかりの人がこんな事を言うなんて。


「…何故ですか?」

「何故って…何でだろ?」

「…は?」


姉さんは、キョトンとした顔をして言った。
…姉さん、あなたは考えなしなんですか?


「ただ…二人でほっつき歩いて、お茶しようかと思ったんだけど」

「…姉さん、そう言うのを一般的に何て言うかご存知ですか?」


…一言で言えば、デートじゃないですか。
こんなの、小学生でもわかります。


「…?」


本当にわからないようだ。
そんな姉さんが、少し小憎らしい…。
そう言えば、先輩が姉さんのことを赤いあくまと言ってた気がする。
まぁ、それは口が滑った時の言葉を私が聞いただけですけど…。
何となく、先輩の言葉は合っていると思った。


「ま、そう言う訳だから」


そう言って離れの客室兼姉さんの部屋に行ってしまった。
なんとなく、ムカムカする。
…先輩にも釘を刺しておかないと……って駄目だ。
そんな事考えても、方法が見つからない…。

夜の方を激しくして寝かさないでおくとか。

そんな邪まな事を考えてみたけど、駄目だ。
そう言う事は出来ない。
…先輩が行きたいなら、それでいいです。






























で、朝になってみると、やっぱり先輩と姉さんは出かけていった。
…と、言うかなんです?
あのニヤニヤした姉さんの顔。
とっても、気になるじゃないですか。


「はぁ…」


ライダーも最近は、何処かにほっつき歩いているので今日は一人だ。
何をしよう…?
テレビをつけても、大して面白い番組なんてやっていない。
お昼になれば、昼ドラでもやるけど…まだ時間はある。
と、言うか…自分が何となくオバサンくさく感じてしまう。

だから…一人は嫌だ…。

お昼だって、一人で食べないといけない。
先輩は、姉さんと一緒…。
あ〜もうっ!本当にムカムカします。
私も外に出よう…少し気晴らしが出きるはずだ。












私の行動範囲はとても狭い。
と、言うか…高校を卒業した身で更に進むべき道までの準備期間は、誰も遠出はしないだろう。
だから、自然と行動範囲は狭まる…筈だ。
こういう暇な日なら、学校の方へ行ってる。
藤村先生とお茶するのも悪くない。

食料持参ってのは少し面倒ですけど。

教会にも行きたくなかった。
やっぱり気分的にそんな気にはなれない。
新都の方へ行くと、もしかしたら先輩達に出くわす可能性もある…。
買い物もする訳じゃないからいいかと考える…。

最後に考え付いた場所…。
私は、気乗りはしないけれど、そこに行く事にした。












「兄さん…お久しぶりです」


私が来た場所は、冬木の合同墓地。
ここには、石で出来た想いが集まる場所。
別に兄さんの魂がここにある訳じゃない。
だけど、ここは…話しが出来る場所だと思っている。


「お変わり…なさそうですね」


これは…自分の都合の良い解釈だと思う。
兄さんは…私が初めて出会った頃の兄さんに戻っていると思っている。
私の事を怯えた小動物に例えて見ていた、あの頃の兄さんに。
その頃の兄さんは、優しかった…。
お互い、何も知らない時は普通の兄妹のような感じだった。
何時も私は兄さんに『言いたい事があるなら、言えよ』といわれた。

それが、きっと…不器用な兄さんの優しさだったんだ…。

だから、私は謝った…。
兄さんの生きがい…目標を潰してしまってごめんなさい…と。
ただ、私を許して欲しい…そんな事は考えていない。
ただ、罵って欲しかった…殴ってくれれば…良かった…。
それだと楽だから…。

そんな事しか出来ない兄さんは、本当に怒っていたんだと思う。
もしかしたら…本当に、私の事を妹として見ていてくれたのかもしれない。
ただ、それが…歪んでしまっただけ…。


「お父様と会えましたか?」


手を合わす…。
結局は…死んだ者勝ちだと思った…。
死んだ人間を悪く言うのはよくないと…ただ、本能的に思った。
何も言い返せない人を、悪く言うのはよくない…。
言うのなら、良い所だと私は思った…。

自分の罪を軽くしたい行為かもしれない。


「兄さん…私が、死んだ時…兄さんと同じ場所に行けるかわかりません。きっともっと…暗い場所でしょう」


死ぬのは怖い…。
私はそう思っている…。
誰だってそうだと思う…。
だけど、私は幸せを知ってしまった…。
だから、もっと…死が怖くなっている…。


「不出来な妹でごめんなさい…。だけど、私は…こうしか生きれません」


私の生き方は…これしかない。


「だから…私の事を…馬鹿だ馬鹿だと言いながらそちらで見ていてください。きっと、もっと馬鹿な事をします」


少し苦笑する。


「でも…出来る事なら助言も欲しいですね…。あはは…本当に不出来な妹ですね」


合わしていた手を離す。


「あ、でも…先輩の事、悪く言ったら駄目ですよ。先輩は数少ない兄さんの友達なんですから」


そう言うと、空から悪かったなと聞こえた気がした。
ただ、そんなのは幻聴だと気づいていた。
都合の良い私が生み出したものだ。


「また…来ます。今度は、もっと出来の良い妹になれてる事を祈ります」


そう言って、私は墓地を後にした。
何となく、少し心が軽くなった。
ただ、これは自分の独りよがりである事は忘れまいと心に決めた。

あぁ…今日は天気がいい…。
春の陽気な風が私の頬を撫でていった。































家に戻る頃は、何時の間にか三時を回っていた。
門の入り口が見えてくると、私はあの二人を見つけた。
言うまでもなく、先輩と姉さんだった。
ちょうど、帰ってくるタイミングが一緒だったみたいだ。


「あ、先輩、姉さん」

「お、桜か。どっか出かけてたみたいだな」

「はい。兄さんに会いに行きました」


私がそう言うと先輩は「そっか」と言った。
何となく嬉しそうな…優しい声が聞こえた。


「それで…先輩達は何処に行ってたんですか?」

「え…っとそれは…」


先輩は、何か顔を真っ赤にしてどもっていた。
…大体、そう言う顔をする先輩は何か私に悪いことをした後だ。
と、言うか…きっと原因は先輩じゃなくて…。


「…なによ?」


この赤いあくまなんだろうと思った。


「ただ、士郎の身体の最終チェックをしただけじゃない。真っ裸にして」


しれっと言う姉さん。
…まぁ、それぐらいは予想はしていたけど…。


「わぁっ!遠坂、それは内緒にするって言っただろう!」

「え、あぁ…そう言えばそんな事も…」

「先輩…どうして秘密にする必要なんてあるんですか?」


私は笑顔で先輩に問う。
先輩は顔が引き攣る…。
なんか、怖がっている気がした…。


「い、いや…これは、男の威厳に関わる問題で…」

「威厳…ですか?」

「てか…色々弄くり回されるのは恥かしいって言うか…」

「別に良いじゃないですか。極端に言えば、姉さんはお医者様みたいなものなんですから」

「まぁ…間違いじゃないわね」

「ね。先輩は堂々と目の前のモノは医者だ、もっと極端に言えば人間じゃないモノが診ていると思えばいいじゃないですか」


医者なんて結局はその場限りだ。
だから、言葉の交わせる物のようなものだと私は思う。
そうでなきゃ、裸を他人になんてみせれない。
確かに信頼出来るお医者様には、そう言うものを超えたものがある。
だけど、実際そう言うものは長い年月が必要だ。


「って、あたしは人扱いされないの?」

「ええ。万年男日照りの姉さんには格好の獲物かもしれませんが、先輩はそう言う物には困ってませんからね」

「ちょっ、誰が万年男日照りだって!?」

「姉さんです」


先輩の相手は私だけでいいんです。
と、言うか…私しか保てないと思います。
勝負を仕掛けても勝てる可能性は限りなく低いですから。


「……桜…一度、お互いの立場をハッキリとさせないといけないみたいね」


あぁ…あの笑顔は何時も喧嘩の前に出てた奴だ。
だけど、私だって負けません。


「ええ、そうですね。何時までも自分が一番だと思っている姉さんに世界を教えないといけませんね」

「…ふふふ…後悔しない事ね」

「姉さんこそ…」


お互い不敵な笑みで近寄る。
姉さんの左腕の魔術刻印が煌びやかに輝きだす。
本気なんですね、姉さん。


「おーい…家の前でやると目立つって言うか…やるなら中でやれよ…」


外野の声が聞こえてきましたけど…無視です。
先輩の制止でも今日は聞けません。
大喧嘩の日なんですから。


Fin.


後書き

Fate SS第二弾です。
士郎×桜を目指しているんですが…何故か今回は姉と喧嘩で締めくくりですw
次回は、もっと甘い感じにしてみますかw
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