温もり

By KEN






「ん…」


大分、暖かくなってきた。
朝起きるとき、そんなに苦ではなくなってきたから…暖かくなってきたのは間違いない。
最も、私の場合は冬でも温かかった。
スッポンポンの裸で寝ていたって、風邪をひく心配はなかった。

この場合、自分から裸になる場合とされる場合がある。
される場合は、まぁ…ホントにされるのだ。
いや…もう、否応なしに…。
だけど、嫌と思わない自分が少し可笑しかった。


「朝ご飯、作ってきますね」


温かい布団と温もりの元にそう言って部屋から出て行く。
昨夜は、裸にされた…。
させた主に、そう言った自分が可笑しくてたまらない。
…モチロン、今はちゃんと服を着ています。












ふぅ…トン…トントントン…。


最初の一振り目は、少し気合を入れる。
上手く切れるかどうかで、出来も変わる。
だから、最初は丁寧にやる。
これは自分のルールで、何時も先輩に可愛いと茶化される場所だ。
少し笑われて、恥かしかった。

だけど、その後、私の頭にポンッと手を置いて撫でてくれた。

それが嬉しくて…嬉しく。
包丁を握る力も入ってしまう。
芯がしっかりする感じがする。






そう言えば…藤村先生が朝に来なくなった。
別に私が来るな来るなと言う視線を出していた訳じゃない。

…多分。

ただ…先輩と私が寝坊した日があった。
運悪いことに二人とも裸だった。
目が覚めて、藤村先生と目が合ってしまった。
そして、叫び声…いや、怒号かな。
あの後、先生が涙を目に溜めながら説教を始めた。
でも、その後に先輩はこう言った…。


『オレ達は、望んでこうなった。悪く言われる筋合いはない』


先生はその日を境に、朝に来ることは少なくなっていった。
先生に会うのが怖くなった。
先生の弟を、こんな私が奪ってしまって…と謝りたかった。
それが出来ない自分が嫌だった。
何時もの癖で人を直視しないように頭を俯かせた。












グツグツグツ…。


「よし、お味噌汁ができた」


ワカメ、油揚げ、お豆腐のいたって普通のお味噌汁。
だけど、これがいいんだと思う。
定番というものは、ある一種の究極の形だと思っている。
だから、定番…一般的なのだ…。
みんなが、万人的に好んだ味なのだ…。
だから、下手に手を加えるとかえって不味くなる。






…結局、先生とは目を合わせないといけなかった。
部活だって、先生の授業だってあるのだから、当たり前だ…。
それに、部活は休みたいとは思わなかった。
これでも、部長なんだし…と言う責任感だけじゃなくて、純粋の弓道が好きになれたから。

初めてやりたいと思ったものは、大事にしたい。

先生が道場の外に連れて行く。
私の手を掴む手は力強くて、少し怖かった。
魔術を使えない一般の人に、力で適わないと言う意味じゃない。
内に秘める強さに、私は圧倒されているんだ。


『桜ちゃん、士郎の事は本当に好き?』

『…はい』


だけど、私だって一つは強く思える想いがある。
それは、みんなにとっては些細な物かもしれない。


『先輩は、私にとって全てです』


汚れた私のただ一つ綺麗な想い。
そう言ったら、自分の胸がスッキリした。
きっと、こういう事はすぐに先生に話した方がよかったんだろう。
内緒にする事なんて、これっぽっちもなかったんだから。

ポンッと頭に手を置かれた。
そして、先輩とは違うけど、私の頭は撫でられていた。
その撫で方は、なんとなく似ていて…先生の顔が目に映ったら…。

先輩と同じ笑顔があって…視界がぼやけてしまった。


『士郎の事、お願いね。アイツ、他の子達と違うでしょ?自分を優先しないって言うかさ…だから、さ…しっかりした人が必要なの』


そう、先輩は…自分を大事にしない。
きっと、私と先輩が同時に風邪をひいたとしても…、先輩は私を診ていてくれるだろう。
…自分の事は、お構いなく…。


『……ん、でも、桜ちゃんなら安心かな。いざと言う時、強いしね』


そう言って、私の頭を撫でる手の力が少し大きくなった。
もう、髪の毛のセットはグチャグチャだろうけど…気にはしなかった。


『このぅ、大人になっちゃって』

『せ、先生、痛いです』

『えぇい、我慢しろう』


先生は力を弱めず、暫くその行為を続けていた。
だけど、私は…その痛みも心地よかった。
最後に…こう言われた…。


『士郎の事、お願いね。アイツの事、しっかり捕まえておくように』












「ん…完成」


そろそろ先輩を起こさないと…。
ライダーは、あぁ見えて低血圧らしい。
聖杯が用意した肉体は、もうこの世にはない…。
そう、ライダーの肉体も…聖杯は聖杯でも、私の聖杯から出来た肉体だ。

以前、無意識にライダーは生前の頃の姿に戻って欲しいと思っていた。

きっと、今の私なら可能な芸当なんだと思う。
だから、今現在の彼女は本来の彼女の姿に近い。
低血圧が本来の彼女の欠点らしい…彼女がそう漏らしていた。
そんなこんなで、平日は朝、先輩と二人きりが多い。






さてと、先輩を起こしにいこう。
私が来る、精一杯の笑顔と声で…。


「おはようございます、先輩」


朝が始まる…。


Fin.

後書き

ようやく書けましたが、短いですねぇ…。
今週中に、もう一本書けるといいなぁw
それと、感想を送って頂けると嬉しい限りです。
掲示板とかメールを送ってくれると嬉しいです。
次回は、も少し早い更新になるかもねw
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