わたしの中にわたしはいますか?
わたしの中のわたしは本当のわたしですか?
わたしはわたしになれましたか?

欠片(わたし)はわたしにとなれますか?

今も深い深い闇にわたしはいる。
そこには、ただ薄っすらな光がわたしを照らしているだけの空間。
その空間は、とても怖くて――。
だけど、それでも居心地の良い場所だと思えている自分もいた。

だってわたしが本当に怖いのは、光なのだから。

光に憧れていても、その世界に足を踏み入れるのが怖い。
だってそこは、とても温かすぎて――。
自分が自分じゃいられなくなりそうだから――。
今だって、もう片足を光の世界に出している状態で、もうこんなに嬉しくて狂いそう。
頭の中身がすっからかんになって、なにもなくなる感じ。

もう、前までのわたしじゃない。
そんな自分が怖くて嬉しい――
Myself
「……ぁ…」 海の底から浮かび上がってくる感じ。 閉じていた瞼を開けると、いつの間にか見慣れた天井があった。 いつの間にか、シミがある場所まで覚えてきている。 わたしはゆっくりと、ベッドから起き上がった。 まだ頭が上手く働かない状態、あくびを噛み殺した。 ――あ、少し目の端に涙が溜まった。 手の甲で少し目を擦る。 そして、そっと時計を確認する。 世間一般ではかなりの早朝に値するその時間。 だけど、人間の適応能力は素晴らしかった。 こんな寝ボスケな自分でも、この時間帯に起きれるようになった。 まぁでも、時々寝坊するときもあるけれど――。 「それにしても――」 それにしても――。 そう、少し嫌な夢を見た。 夢と言うのは、どうしてこうも正直なんだろう? 見たくはないけれど、本当は見たいものを見せてくる。 夢とは、本当に皮肉めいた映像をつくるものだ。 容赦無しにわたしを責め立てる。 「さてと――」 だけどいつまでも気にしてちゃ駄目だ。 少なくとも外面は平静を装っておこう。 それに、こんな事でクヨクヨしていちゃいけないのだから。 さぁ、早く準備をしよう。 パジャマのボタンを一つずつ外していく。 下着を身につけて、その姿を鏡が写し出しているのに気づく。 …他人と比べる機会なんてほとんどないので、どう判断を下せば良いのかわからなかった。 やっぱりもう少しほっそりとすべきなのかと、考えてしまう時もある。 …まぁ、このままで現状維持をしよう。 わたしは少し苦笑して制服を着た。 服を着替えて、キッチンへと向かう。 朝日で光の柱が窓から差し込む。 少し眩しいので目を細める。 「おはよ、桜」 いつもの様に先輩も起きてくる。 朝食の準備はほとんどわたしの役目になった。 ――少し先輩は不満そうだったけれど。 まぁでも、朝くらい勝っておきたい。 主に和食を好んで食べるこの家――。 ここに通い始めた頃は、わたしの料理が先輩と藤村先生に会うか心配だった。 まぁ、最終的にわたしが先輩の好みを知ったので、あまり問題はなかった。 それと、自分が主に自分の家で口にしていた美味しくない(・・・・・・)洋食も自分で研究して、先輩の口に合うような料理にした。 その料理はわたしにとっては自分で形に一つの料理、だから先輩の見せてくれた笑顔が嬉しかった。 その時は、藤村先生が凄く喜んでいたと思う。 「おはようございます、先輩」 それにしても、お互いの共通した趣味が料理とはいかがなものだろう? 毎日、お互いの料理を事細かく評価してるのは異様かもしれない。 更にわたしの方がした、つまり弟子の立場にいるし。 藤村先生は嬉しそうだったりする。 将来、レストランでも経営したら絶対成功する…って。 藤村先生は…わかってるのだろうか? 藤村先生もお客様として扱うのだから、お金を払ってもらわないといけない事に? でも、レストランじゃないにしても、こじんまりとした喫茶店ならできそうな感じがしてしまう。 二人で切り盛りして、二人で経営するお店…。 なんだか、少し憧れてしまう。 「いただきます」 二人で手を合わせて、そして朝食の一時が始まった。 今日もそれなりの出来だと思う。 「うん、美味いぞ桜」 「ありがとうございます」 心配に思うわたしを気遣ってか、いつも先輩は言葉をくれる。 少し嬉しい…。 こんなに簡単にわたしの気分を高揚させる先輩の声と言葉。 魔術師らしからぬ言葉だけれど、まるで魔法みたいだ。 「じゃあ、いってきます。…先輩」 「ああ、いってらっしゃい」 もう夏真っ盛りだ。 外に出るだけで、むわっとした風が服の仲に入り込む。 毎日通る同じ道、だけど毎日違う顔を持つ風景。 前までならそんな事なんて気づかなかったと思う。 そんな事に関心を示す余裕なんてなかったから。 「桜さん、おはようございます」 「おはよう、(ひらぎ)ちゃん」 珍しくこの時間帯に人とであった。 普段なら、きっとわたしが登校一番乗りって感じなのに…。 「今日は早いね」 「はい。今日はいつもより早く起きれちゃいましたから」 「あ、そうなんだ」 「はい」 柊ちゃんは少し嬉しそうな顔をする。 「あ、桜さん。今週末なんですけどお時間ありますか?」 「うん。今の所は暇だよ」 「そうですか…。じゃあ、一緒に買い物に行きませんか?」 「…うん、いいよ」 「じゃあ、始めよっか?」 「はい」 学校には、道場には誰もいなかった。 運動部の人も一人二人しか見かけなかった。 きっと期末が近いからだと思う。 ウチの朝練は自主参加だ。 きっと、今日はわたしと柊ちゃんしか参加しないだろう。 そっと彼女の射を見てみる。 綺麗なフォーム、綺麗な目をしている。 今の彼女には的しか見えていないだろう。
「やっほー!桜ちゃーん!雪村さーん!」
――考えもしなかった誰かの声にわたしは驚いてしまった。 柊ちゃんも同様で、その所為で矢が的から外れている。 柊ちゃんはその声の主を睨みつけた。
「あ、秋野先輩っ!いったいあなたは何をしに来たんですか!?それもこんな早朝に!?」
少し顔を赤くして、紅葉(もみじ)ちゃんに怒りをぶつけた。 だけど紅葉ちゃんは平然とこう応えた。 「なにって…偶然早起きできちゃったからさ、桜ちゃんもいるだろうし、お茶飲みに来たの」 「なっ――。あ、あなた部外者じゃないですかっ!」 「だって、桜ちゃんの淹れるお茶って美味しいし。…それに、わたしだってこの学校の生徒なんだから、部外者じゃないでしょう?」 「くっ――」 紅葉ちゃんは軽く柊ちゃんをいなす。 だけど、その態度が気に喰わないのか、彼女にしては珍しく声を張り上げている。 そんな二人を見て、わたしは少し可笑しかった。 まぁ、紅葉ちゃんの怒りの沸点はそれほど高くはない。 だから少し経つと売り言葉に買い言葉な状態になる。 そうなる前に彼女たちを止めに行かないと――。 でも、まだ大丈夫だから、もう少し眺めていよう。 こうやって言い合えれる人ってのは大事だと思う。 わたしにもそんな人ができた。 それは、先輩とライダー。 ライダーとはしょっちゅう喧嘩したりする。 最近、彼女はとてもだらしがない。 なんと言うか猫のような気ままな生き方をしている。 好きな時に本を読んだり、好きな時にお酒を飲んだりしている。 そして、先輩の使っていた自転車に乗り、新都の方に行ったり――。 だけど、わたしの事は常に気にしていてくれて――。 わたしの事をいつも心配してくれる。 それがとても…嬉しい。
〜〜Interlude〜〜
目が覚めた。 頭の中に残るのは少し嫌な気分。 寝汗などかかないはずなのに、そんな感覚が私に纏わりつく。 私はこんなにも彼女と一心同体なのだと思うと、少し嬉しくもあるし、少しくすぐったい感じがした。 彼女は私の妹なのだから、姉が助けて不思議ではないはずだ。 それに、こんなにも深くわかり合えている人なんて、なかなかいないはずだ。 「――おはようございます、士郎」 「おう。今日は早いなライダー」 「ええ。今日は思いのほかすっきりと起きれたもので」 それはほんの少しの嘘だ。 本当は彼女の夢の所為で無理矢理覚醒させられた感じだ。 「飯…食うよな?」 「はい、いただきます」 「よしっ。今から準備してくる」 こんな早朝に彼と居合わせたのはいつぶりだろう? 普段なら彼が出て行った後、ようやく活動を開始するのだから。 「ほら、今日の煮付けは絶品だぞ」 「そうですか。サクラのつくる料理は日増しに美味しくなってますからね」 「ああ。ったく、弟子ってのは師匠を必ず超えるんだな」 「…ふふ」 思わず笑ってしまった。 「ま、俺は学校に行くから」 「――わかりました。士郎、いってらっしゃい」 「おう。じゃあ、洗い物は流しに置いといてくれれば良いから」 そう言って、士郎は出かけた。 これで家にいるのは私だけとなった。 この家はとても広い、一人で暮らすとなるとかなり心細くなるだろう。 きっと、サクラは無理だろう。 人の温もりを知ってしまった彼女は、きっと寂しさに押し潰されてしまう。 それにしても、今日の夢は少し嫌なものだった。 サクラと繋がっている所為で、彼女の夢はたまに見る事がある。 その夢で、彼女が何に悩んでいるかがわかる。 きっと、今の彼女はこの生活に戸惑っている。 あまりにも平穏すぎるこの生活に――だ。 他人から考えれば馬鹿馬鹿しく平和な生活をしていると思われるだろう。 けれど、彼女にとってはかけがえのない物のだ 彼女は悩む事はない…。 私はそう言ってあげたい…。 けれど、彼女に答えを全てあげて良いのだろうか? ――きっと、彼女の次第なんだろう。
〜〜Interlude Out〜〜
「わぁ…今日は懲りましたね」 「おう。朝は完全に桜の独壇場だからな」 今日のお弁当箱はいつもの奴ではなくて、三段重ねの重箱だった。 「あの…わたしたちもお邪魔してよろしいのですか?」 「ああ、構わないさ。それにいくらなんでもこの量を二人で食うのは無理があるからな」 「あはー、今日はお財布忘れちゃったから儲け儲け♪」 そう言って紅葉ちゃんは箸を動かすスピードを速めていった。 紅葉ちゃんは、割と食べる方だ。 だけど、少し背も中くらいだし、ほっそりとしていた。 結構、偏食家でもあるのに、スタイルが崩れる様子がない。 そんな彼女に少し嫉妬してしまう。 柊ちゃんは、小食だけど好き嫌いのない子だった。 まぁ、彼女の小さな体には相応の量は入っているとは思う。 「あ、美味しいです」 「ん、ありがとう」 こんな付き合いができるようになったのは、本当に初めてだ。 この一年は…多分生きてきた中で幸せの絶頂期にいる。 だけど、まだこの上があるのだとしたら…わたしは、ちゃんとわたしでいれるかが心配だった。 悪い意味で幸せボケになってしまうかもしれない。 幸せに縋って…人に縋って…。 そんな人になってしまいそうで…。 そんなのじゃあいけない…。 「ほんと、桜ちゃんや衛宮君ってお料理ができるから良いなぁ」 「そう?」 「そうだよー。やっぱり、料理ってのは人間面としてかなりのアドバンテージだと思うよ」 「そっかな…?」 「わたしも…そう思います。わたしもお料理が苦手ですから、桜さんたちが羨ましいです」 そう言って柊ちゃんは憧れと言うか尊敬の光が宿った目でわたしと先輩を見た。 まぁ、わたしの場合は料理を覚えてよかったかなと思っている。 先輩を手伝いたいから、と言う所からわたしの料理の才能は開花したんだし。 「じゃさ、今度わたしと雪村さんに料理教えてくれない?」 「いいけど…」 「ほんと?じゃあさ、週末にさ!」 週末か…。 柊ちゃんと約束があるし…。 ふと柊ちゃんの方を見てみる。 柊ちゃんは小さく頷いて――。 「じゃあ、週末は買い物をしてから、って事にしませんか?」
〜〜Interlude〜〜
気だるくなる午後の授業。 今日はいつもより弁当の量を多くしたから、更に眠気は三割り増しくらいな感じだ。 更に英語の授業って事になると、本当に眠い。 ふと桜が座ってる方も見てみた。 あちゃー、桜もウトウトしている。 こりゃ、後数分もしないうちに寝ちまうと思う。 まぁでも、たまには良いかもしれない。 桜だって、毎日大変だし。 それに、こういう事だって経験したって損はしないはずだ。 本当にここ一、二年は俺の生活に大きな変化があったなと実感する。 まず最初に自分以外の魔術師を知り、聖杯戦争なんて訳のわからないものに参加した。 新しい出会いもあったし、いつ間にか消えてしまった人もいた。 そして、ずっと近くにいた人がいつの間にか一番大切な人となった。 そして――。 俺は自分を否定した。 桜を守るため、となにか言い訳じみた言葉を言いそうになる。 けれど、違う…。 これは俺自身の夢ではなかった。 これは勝手に切嗣(親父)から継いだ()だから。 きっと、親父の言葉は正しいんだと思う。
――正義の味方は期間限定の夢だと言う事――
全てを守る事なんて出来ないし…。 どれが悪かなんて人には判断できないし…。 こんな夢は本当に夢物語で…きっと、達成不可能なのだから。 だから…俺ができる最大の夢は…桜を守る事なんだ。 桜だけの正義の味方となるのが、俺の最大で絶対の夢だ。 ――聖杯戦争が終わってから、桜は少しずつだけど内の桜が出せてきたと思う。 それは俺が望んだ事…。 無理して笑う桜が段々と少なくなってきて――。 本当に笑う桜が笑ってくれる――。 本当に少しだけど…自分の夢が叶ってきていると思うと…嬉しい。 あ、寝ちまったな桜の奴…。 じゃあ、俺も寝てしまおうか? ちょうど良い気だるさ…。
〜〜Interlude Out〜〜
「もうっ、なんで起こしてくれなかったんですか?」 「いやーたまには良いかな、って思ってな」 午後の授業はほとんど寝てしまっていた。 帰りのHRで藤村先生が虎に吼え…もとい、お説教を貰っていた。 「桜は、授業中に居眠りなんて初めてだったか?」 「はぁ…多分、自習の時間をいれなかったらそうです」 もう外は空が茜色になっていた。 これから商店街に行って夕食の食材を買いに行く。 夕食は二人で共同してやるのが最近の決まりとなっている。 この時間になると、自分が一番活き活きしているのがわかる。 「まぁ、悪い事をするのもたまには良いだろ?」 「…そう…ですか?」 「ああ。藤ねえだって最終的には笑って許してくれただろ?」 「…そうですね。わたしもちょっと…怒られているとき楽しかったかもしれません」 先生にとっちゃ心外かもしれないけれど――。 だけど、こういう事をするのは悪くないと思ってしまったわたしもいた。 「よし。じゃあ、買い物に行こう」 「はいっ」 「今日は桜の居眠り記念日だからな」 「せ、先輩っ!」 そう言って先輩は走っていってしまった。 わたしも頑張って追いかける。 「あ、逃げるなんてズルイですよ!」 こんな生活をするのも悪くない。 わたしの生き方も悪くない。 結局、わたしはわたしと信じるしかない…。 この幸せも…わたしの努力で長く続くに違いない…。 わたしの中にわたしはいて。 わたしの中のわたしは本当だと信じて。 わたしはわたしになる。 欠片(わたし)はわたしとなる。 今も深い深い闇にいるけれど、わたしはいつか…光の世界に出る。 そして、あの人たちと一緒に生きていこう――
先輩を追いかけている――。 そんな事ができるわたしがとても嬉しい――
Fin.
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