心踊り出すような生き方を 雅史編 By KEN
僕には幼馴染がいる。 菊月 佳奈子、そして・・・望月 則和だ。 だけど、則はもう僕の目の前にはいない。 僕たち三人組みのリーダーだった彼はもういない。 馬鹿げた事だけど、それは僕がまだ小学生で一年生の時だった頃だ。 そんなちっちゃな頃の出来事なのに、僕の心の中にはまだこんなに彼の姿が残っている。 きっと、佳奈子にはそれ以上に残っているはずだ。 そして、彼女は則に恋をしているんだと思う。 違う、それは恋なんかじゃなくて自分のつくりだした理想の男性像なんだ。 それを、則に置き換えているんだ。 実際、則はカッコ良かったし、人を導くカリスマも持っていた。 佳奈子が好きじゃないはずがない。 僕の勝手な勘違いかもしれないけど・・・。 でも、僕は彼女をどうする事も出来ない。 嫌われるのが恐いからだ。 僕は佳奈子の事が好きなのだから。 だから、下手な事を言って佳奈子との関係を壊したくない。 ホントに僕は馬鹿だ。 彼女を救えるのは僕だけなのに・・・。 己惚れかもしれないけど僕はそう思っている。 以前に僕は佳奈子にもう諦めろと言った事がある。 その時は目を疑った。 佳奈子は半狂乱になった。 何とかその場はおさまったけど次はどうなるかは分からない。 その時、自分を犠牲にするような言葉も吐いてしまった。 僕は彼の代わりにはなれないの?・・・と。 これは完全ある自分の否定。 僕が僕自身を消し去ろうとした。 今、僕は本当に僕自身を保っているかが気がかりだ。 最近になって僕は僕を消しているような気がした。 たとえば、佳奈子の「理想」の則に近づくために好みじゃない服装にしたり。 少し、自分自身の性格を変えてみたり。 佳奈子に好かれるために、いろんな事をした。 漫画とかドラマとかの好みの男に近づけて自分らしさを保っている訳じゃなく・・・。 僕はその好みの男になろうとした。 自分らしさなんて、まったくなくして。 どんな感じが「理想」の則っぽくて・・・。 どんな感じに変えていけばいいか僕の心は勝手に動き出していく。 機械のような心。 全てが色褪せる。 毎日が辛い。 自分の自分らしさが消えていく。 それでも、僕は佳奈子の隣に居れれば満足だ。 心が安らぐ春、暑い日差しの夏、紅葉が見られる秋、そして今の寒い冬の時期も・・・。 「・・・・・・」 佳奈子と帰り道で別れて僕はある場所に行った。 そこは、僕のお馴染みの場所であったりする。 目の前の石で造られたモノに手を合わせて目を閉じる。 石造には「望月家之墓」と彫ってあった。 そう、則の両親が眠っている場所だ。 別に仏様にお願いしている訳じゃない。 ただ僕はおじさん、おばさんに謝っているんだ。 あなた達の息子を汚してしまってスミマセン・・・って。 少し僕は俯く。 目を閉じているので、他の感覚が敏感になっていった。 その時、何かの香いがした。 とても懐かしい香りだった。 おばあちゃんの家い行くと度々嗅いだこの香い。 よく見るとのお墓には線香が供えてあった。 「誰がお供えしたんだろう?」 一人呟く。 家への帰り道、僕は何時もと違うルート通る事にした。 気分転換も兼ねているけど、もう一つ別の理由がある。 久しぶりに則の家の前を通って帰ろうと思った。 則の家は不思議な事に次の住人が来る事はなかった。 それ以前に母さんの話によると何十年かは則の家の土地は則のモノになっているらしい。 たとえ、則がいなくても家はなくならない。 ある、特殊な手段をつかっているらしい。 僕はあまり詳しくはないけど・・・。 そう思えばあの家があるから僕は則に縛られているのかもしれない。 僕に限らず佳奈子にも。 でも心の奥底に願っているのは早くあの家に明かり灯る事。 そして、則が佳奈子の事なんか何とも想ってなくて、佳奈子の理想じゃない・・・。 もし、そうだったらどんなにいいだろうと考えてしまう。 自分が佳奈子に振り向いてもらいたいがためにこんな自己嫌悪に陥るような考えを生み出す。 とても、僕は嫌な奴だ。 「!!」 ちょうど、則の家が見え出す頃・・・。 僕は何時もとは違う光景を見てしまった。 則の家に明かりが灯っていた。 これは幻? 何故あの家に明かりが? パニックになる頭。 急いで則の家に向かう。 もし、これが幻なら・・・。 あぁ、幻でも良いから覚めないで・・・。 急いで則の家の近くに行く。 そして、インターホンを押す。 呼び鈴が鳴る。 少しの間、静かな空間が生まれた。 少し心を落ち着ける。 ふぅ、と息を吐く。 心臓の鼓動が異様に早い。 握り締めた拳は少し汗ばむ。 玄関のドアが開かれる。 「則・・・?」 ドアを開けた主は僕の子どもの頃のイメージを多少残して成長した則がいた。 「久しぶりだな、雅史」 うっすらと笑みを見せる。 僕は・・・戸惑った。 「うん・・・」 でも、僕は彼と久しぶりの再会も無感動になった。 冬の寒い暗い夜が僕を冷静にさせたのか・・・。 それとも、そこまで僕の心は、僕自身は人形になっているのだろうか・・・? とても自分が嫌になる。 「おぼえてくれていたんだ」 「あぁ、当然だ」 話の繋がらない、チグハグとした会話。 もし、もう一人誰かがいたらイライラするだろう。 「ほら、入れよ」 則が僕を家に招く。 「アイツもいるしさ」 「アイツ・・・?」 僕の頭の中はまたパニックに陥った。 「オスッ、遅いわよ神無月!」 まるで、今までの事が嘘だったかのように・・・。 則の事は前からずうっと一緒にいて、大きくなったかのように・・・。 普通に友達の家でパーティをしている。 魔法をかけられたような気分だ。 そして、少し悲しかったのが佳奈子に「笑顔」が戻った事。 則がいるだけで・・・。 僕には出来ない事だ。 「母さん達はパーティのためにご馳走つくってから来るって」 「へぇ・・・」 「それまでは、則のつくったおつまみで楽しみましょう」 「そう言えば、飲み物ないな・・・買ってくる」 「え、私が行くわよ?」 「気にしなくていい、俺が行きたいんだ」 「うん・・・」 則にちょっと席を外すと言われた僕と佳奈子は二人きりとなった。 少し重い空間になる。 「どう・・・則は?」 「ん・・・カッコ良くなったね」 何処から帰ってきたとか、今まで何をしていたかは禁句のように・・・。 僕らはその話題には触れなかった。 少し顔を赤くしている佳奈子。 「今日はホントにビックリしたわ。家に帰ったらいきなり母さんから電話があったんだもの」 「へぇ」 「神無月のお母さんも一緒につくってるの」 他愛のない話。 少し安心する。 「則ってばさ、今でも私の事、佳奈ちゃんて呼ぶんだ・・・」 昔から則は彼女をそう呼んでいた。 思い出すようにしみじみと言う佳奈子・・・。 「少し恥ずかしいけど嬉しかったりして・・・。だって、私の事おぼえていてくれたんだもの」 「うん・・・。僕も嬉しかった」 一目、見ただけで僕を雅史と呼んでくれた。 少しじゃなくて凄く嬉しかった。 でも・・・。 「雅史・・・には、悪いけど、やっぱり私は則が好きだよ」 僕には是粒の言葉も用意されていた。 身体が動かない。 縛り付けられている様な感覚。 「そっか・・・」 身体が震える。 僕の心は寒さに凍えた。 「僕も・・・ちょっと席を外すよ・・・」 「うん・・・」 則の家を出た。 さっきまで堪えていた涙が溢れる。 涙が頬を伝う。 「・・・っく・・・うぅ・・・」 ホントなら大声をあげて泣きたかった。 だけど、不思議と声が出なかった。 喉に何かつまった感じだった。 「ふぅ・・・寒いなぁ・・・」 涙を流したままそんな事を呟いた。 空を見上げた。 これ以上涙を流さないように。 空には星が煌いていた。 ここは田舎だから星が奇麗だ。 とても切なくなってくる・・・。 センチメンタリズムな気持ち。 「そりゃ、冬なんだから寒いに決まっている」 声がした。 そこには、コンビニのビニール袋を持った則がいた。 「ちょっと、来いよ」 則が言った。 自然と頷いた。 「ほら・・・」 ビニール袋の中にあった缶を僕に渡す。 「これ、ビールじゃないか・・・」 「まぁ、気にするなって・・・」 空き地の下で僕と則はビールを飲んだ。 普段、飲みなれていないせいか、頭がぼぅっとした。 「俺さ・・・足ここを出ようと思っている」 「え・・・」 「俺にも自分の居場所ってのがあるからな」 「・・・・・・」 「ここに来て分かった。時間ってのは非情だって」 「うん」 「だから、佳奈ちゃんと何時までも仲良くな・・・」 彼はそういって、缶ビールを飲み干した。 だけど、僕は則の言葉にカチンときた。 「じゃあ、何で帰ってきたんだよ!」 「・・・・・・」 「則が帰って来なければ!ずっと関係は壊れなかったんだ!」 則が何で帰ってきたかだって、僕には少し悟っていた。 彼だって人間なんだし、やはり故郷ってのは恋しいんだ。 でも、僕は僕自身のエゴを吐き出していた。 「僕は則の代わりだったとしても佳奈子の隣にいたかったんだ!」 「・・・なんでだ?」 「決まっているだろう!?僕は佳奈子が好きなんだ!」 そう、たとえ佳奈子が別の人を求めていても・・・。 僕は佳奈子の事が好きなんだ。 「則が僕の佳奈子の隣権利を壊したんだ!則が・・・」 「雅史!」 則以外の声が耳に入った。 今一番聞きたくない人の声だった。 「馬鹿雅史・・・」 「・・・ゴメン」 僕は、何時の間にか則の胸座をつかんでいた。 パッと放し、ここからいなくなろうと思った。 「馬鹿!私がそんな事望んでいた!?」 「・・・・・・佳奈子は則が好きなんだし・・・僕が隣にいるためにはそれしかなかった」 僕に正面から歩み寄ってくる。 そして、目の前にまで来た。 そして、パチンと一撃・・・。 平手を僕にくらわした。 「馬鹿・・・」 佳奈子の呟き。 「でも、ありがとう」 少し温かかった。 「わ、私だって・・・そんなに子どもじゃないわよ。・・・ちゃんと、今の今まで心の整理をつけてた・・・」 「・・・・・・」 「中途半端な事は言えない。だから、好きだったって過去形で則に告った」 「・・・・・・」 「でもね、ホントに好きなのは・・・アンタよ!馬鹿雅史!」 佳奈子が僕に抱き着いた。 あぁ・・・僕の頭の中は白い靄がかかってきた。 「佳奈子・・・」 「よかったな、雅史」 「則・・・」 「はぁ、芝居をするのは楽じゃない」 則はそういって、空き地から出て行った。 きっと、則は僕に発破をかけていたのだろう。 最後に彼は・・・。 「佳奈ちゃんはお前の本心が聞きたかったんだ。俺のフリなんてしてない、お前自身の」 僕は・・・やっと、佳奈子の姿を見る事が出来た。 何時の間にか僕の方が大きくなっていて・・・。 そして、僕に抱き着いている佳奈子・・・。 頭しか見えないけど・・・。 心が解けてくるような気がした。 その時僕は、身体がふらついた。 意識が遠くなって行った・・・。 あぁ、ビールのせいかな・・・? To be continued 後書き 雅史編がやっと終わりました。 はぁ、長かった。 さてそろそろ・・・最終話ですね。 頑張ります。 出来れば感想も・・・。 感想はこちら
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送