心踊り出すような生き方を
第9話


By KEN






薄暗い廃ビルに美奈はいた。
椅子に座らされていた。
だが、逃げられないように椅子と一緒に縄で縛られていた。


「……っ…ぇっ…」


泣きそうになるが、涙を流さないように堪える。
すると、一人の男が近寄ってきた。
美奈はその男を睨み付ける。
男は、その視線をしっかりと受け止める。


「悪いな…お前には、なんの恨みもないんだがな…」

「なんで…こんな事をするんですか?」

「それは…俺が、自由を守る者だからだ…」

「自由?」

「……」


男は、美奈に背中を見せてつぶやいた。


「そう…。それが、たとえ間違いだったとしても…与えられた使命だからだ…」

「……」

「安心しろ…お前は死なない…すぐに助けは来る」


男の言葉を美奈は何だか信じれるような感じがした。
そして、何か男の言葉が温かみを持っているような感じがしたのだ。


「それは…誰ですか…?」

「……死神だ」


男は小さくそう言った。






























「あれから…どのくらい経ったんだろう?」


美奈は自分が今いる場所のたった一つの窓の方を見た。
少し小さい窓だが、外の景色だけは見えた。
この廃ビルは見た事も入った事もないから、少なくとも美奈が住んでいる付近じゃない。
ビルが何本も生えているところを見ると、都心に近いはずだ。
空はもう、夜になっていた。


「……助けて…」


美奈は小さく呟いた。
誰に助けを求めたか、彼女自身、よく分からなかった。
きっと、親だと思ったが、もしかしたら、今、彼女が意識している人物かもしれない。
親よりも大きくなってきた存在かもしれない。


「…則和さん…」












カツーン…カツーン…


廊下に足音が響く音が聞こえた。
それは、美奈がいる場所に近くなっている。
その音で美奈は目を覚ました。


「…寝ちゃったんだ…」


疲れがどっと来たのだろう…。
美奈は、足音の主を見た。
さっきの男だ。


「なんですか?」

「……」


男は何も言わなかった。
視線も美奈とは違う方向を見ていた。
それは、窓…外を見ていた。


「来たか…」


男は目を閉じた。
その言葉に美奈は小さく「えっ…」っと言った。


ガシャーン!と窓のガラスが音を起てて割れる。
それと同時に何か黒い塊が部屋の中に入ってきた。


「な…何?」


美奈は呆然とその黒い塊を見つめる。
すると、ゆっくりとその塊は立ち上がった。
月明かりに照らされて、それが人だと分かる。
黒いフード付のローブで顔や体型が分からなかった。


「死神…」

「……返してもらうぞ」

「…私は…自由を守るための剣だ!」


そう言って、男はナイフを手に取り、黒いローブを纏った人物に切りかかる。
ナイフは右手に持っており、それを右上から斜めに切り下ろした。
スパッとローブの布が切り裂かれる。
だが、もともとひらひらした服なので、本体に怪我を負わせてはいなかった。
だが、男もそれは牽制のつもりだった。
左手から隠していた小型のナイフで切り上げる。
ガキィンと金属同士がぶつかり合う音がした。


「くっ…」


ローブの人物が持っていたのは、拳銃だった。
だが、それは普通の物とは違い、銃身の部分が出っ張っていた。
まるで、それは元から盾になるように設計されているようだ。


「……」


ドンッと何かが破裂したような音がした。


「ぐぁっ…」


男は左手をおさえる。
その時、ヒュッと風の音がした。
パサリと音を起ててフードがとれる。
そこから、茶色の髪の毛が出てきた。


「の、則和さん…」

「…少し待っていろ…助ける」

「…はいっ」


美奈は、則和の言葉に安心した。


「ははは…世も末だ…こんな、餓鬼が…」

「……」

「……それに、負ける俺も俺か…」

「黙れ」


則和は、男を押さえつけるような視線で、声で言う。
男は、すぐさま黙った。
それは、動物の本能のように。


「…お前が喋って良い事は、あいつ等の情報だけだ…」

「……言えない…俺はあいつ等に恩がある…それは、返さなくちゃいけねぇ…」

「そうか」


則和は、興味がなくなったのか、引き金に指をかけた。
そして、何の躊躇いもなくそれを引いた。
ドンッとまた、何かが破裂する音がした。


「ぐはっ…」


男の額に命中した。
男は、仰向けに倒れて絶命した。
どくどくと血の海ができていく。


「ひぃ…」

「……」


美奈は男の無残な姿を見て悲鳴をあげた。
そして、冷酷な事をする則和にも…。
それを気にせず、美奈が縛られていた縄を解いていく。
解き終えると、彼はこう言った。


「……帰るぞ」

「い…ぃゃ…」

「……そうか」


則和はそう言うと、この場から立ち去ろうとする。
その時、美奈が何故、拒絶の言葉を言ったか分からなかった。
助けてくれたのは、嬉しかった…。
だけど、人を殺した事は怖かった。


「ま、待ってください…」

「……」

「帰ります…」




























































「ごめんなさい」

「……」


則和は、何も応えなかった。
美奈は、彼の圧迫させる空気が怖かった。
だが、則和の背中が心地悪いわけじゃなかった。


「腰が抜けちゃって…」


初めて殺人の瞬間を見て、美奈は腰が抜けた。
立ち上がれない事が分かると、則和は溜息を吐いて美奈に背中を向けてしゃがんだ。


「……今日、お前の家から出て行こうと思う」

「えぇ!?」

「……俺の本性がバレたしな」


則和は、珍しく笑っていた。
くっくっくと声を殺して笑った。


「……駄目です…」

「…だろ?出て行くんだ…衣食住の食と住がなくなったのは痛いがな」

「だから…駄目です」

「ん…?」

「今日の事は…忘れます…家にいてください」

「はぁ…?」

「…一緒にいてください」


美奈はそう言った。


「……お人好し」


続く
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