心踊り出すような生き方を
第8話


By KEN






「ねぇ、望月君」

「なんだ?」


則和は詠子に体育館の裏に呼び出されていた。
こういう場所に似合うような甘い雰囲気も、ましてやこんな場所で如何わしい事が起きる雰囲気ではない。
むしろ、則和は少し不機嫌で、詠子は少し悪戯っぽく笑っていて、事態がよく分からなくなっている。


「その髪、染めているの?」

「…そんな事を聞くために、わざわざこんな場所に呼び出した訳じゃないだろうな?」

「いいじゃない」

「地毛だ」

「へぇ、じゃあ、ハーフとか何か?」

「さぁな…」

「……はぁ、まぁ…いいわ」


則和の態度は変わらなかったので、詠子はやれやれと首を振って溜息をついた。
則和はそれを冷ややかに見ている。


「まぁ…冗談はこのくらいにして…情報買わない?」

「……どんなだ?」

「多分、あなたが一番欲しい情報…自由を手にしたい爺さん達の情報」

「ほぅ…いくらだ?」

「あら、即決?もっと疑り深い性格だと思っていたわ」

「別に、金なんて興味はない」

「そう、じゃあ…こんだけ」


詠子は指を四本立てた。
則和はそれを見て、ズボンのポケットから財布を取り出した。
そして、金色に輝くカードを詠子に渡した。


「……好きなだけ使え、別に四億でも四十億でもかまわない」

「あ、あはは…そこまでガメツクないわよ」

「だが、くだらない情報だったら…お前を殺す」

「……幹部クラスの一人の居所が分かったわ」

「ほう」


則和は目を細めた。
その情報が、彼にとっては一番手にしたい物だった。
だが、少し不可解だった。
自分にもそれなりの情報網があるが、この少女は何故そんな事を知っているのか分からなかった。
一体、後ろに何があるか分からなかった。






























昼時になった。
屋上には、太陽が照り付けてきて少し眩しい。
だからなのか、屋上には誰もいなかった。
則和は屋上の影になっている所に腰を下ろした。


「……」


そして、手に持つ弁当を開けた。
そこには、五色色とりどりの料理があった。
それを見て、少し胸の奥がむずむず、くすぐったい感じになった。
それを、おもむろに口に運んでいく。
彼にとって、誰かが作ってくれた弁当とはほとんど初めての物だった。
確かに、コンビニの弁当だって、れっきとした弁当だが、手作りと言うものは、今までに一度もなかった。
…そう、誰にも作ってもらった事がなかった。
親にでさえ、そんな事はなかった。


「則和さん…ここにいたんですね」

「……」


声が聞こえた。
なんとなく、最近、聞きなれた声だった。
声のした方を見てみると、やはり、あいつがいた。


「あの…みんなでご飯食べません?」

「……俺はここが気に入っているから、遠慮する」

「…そうですか」


美奈は少し残念そうにつぶやいた。
則和は、気にせず弁当をまた食べ始めた。


「じゃ、じゃあ…みんながここに来て食べてもいいですか?」

「……構わない、俺の領地じゃないからな」

「じゃあ、誘ってきます!」


則和は美奈の後姿を見送った。
暫くすると、則和は立ち上がって屋上の出入り口に向かう。
すると…。


「よう…望月先輩」

「……誰だ?」

「俺は、刈川 俊樹って言うんだ…美神の友達だ」

「そうか…で、何のようだ?」

「別に、先輩と飯を食おうと思ってね」


だが、俊樹の表情は険しいものだった。
則和に食いついていくような勢いだ。
則和もそれは感じている。


「あんた…何処に行こうとしてんだ?」

「別に…お前たちの邪魔をしちゃ悪いと思ってな」

「……あんたが人と関わりを持ちたくないタイプの人間って分かるけど…」

「……」

「俺の友達がお前の事を好きなんだ。そいつが悲しむような事をしたら、俺が許さねぇ」

「……」

「ほら、座れよ」


俊樹は則和の腕を掴み影ができている所に座らせた。
俊樹は懐が何かを取り出した。
小さい、棒状のものを口に咥えた
先端部分に火をつけた。


「……あんたは、驚かないんだな」

「別に、タバコくらいでぎゃーぎゃー騒ぎはしない」

「へへへ、美神とか華香美とかは結構騒いでたぜ。それに、祥子だってな」

「……俺だって、酒は飲む」

「同類だな……あんた、結構悪そうな感じはしないけど」

「…お前のように見掛け倒しじゃないからな」


則和はそういって、俊樹を見つめた。
確かに俊樹は、髪は金色に染めきっている。
イヤリングの数も半端ではない。
さらに、タバコまで咥えているのだから、さらに拍車をかけている。


「にゃにぃ…そうか?」

「……悪ぶっているって感じがする」

「そーだな…ま、これも家庭の事情でね」

「そうか」

「あんたの親は?美神のとこに預けるなんざ、結構ヤバイ親なんじゃねぇの?」

「……俺に親はいない」

「……悪い」

「いいさ…それに、いた時も俺自身、碌な親じゃないって言っていたからな」

「…はぁ…親っていうのは…大人っていうのは…嫌だねぇ…」

「ああ」


則和は少し、俊樹が自分に近いものと感じた。


「そいや、手は大丈夫か?」

「あぁ…あの時のか…問題はない」


すると、屋上の出入り口の声がした。


『未幸、亜弥ちゃん!早く速く!』

「来たみたいだな…」

「あぁ…」




























































夕方になると、空はもうオレンジのような赤になっていた。
遠くの空はもう、青いような色が見えはじめている。


「則和さんっ!一緒に帰りましょう!」

「……ああ」


美奈は笑顔で則和に近寄る。
学校の昇降口辺りで見た則和の雰囲気には、彼女は気づかなかった。
注意深く見れば、彼は違ったのだ。
瞳に何か不思議な色を宿していた。


「あの…家に帰ったら、勉強…教えて貰えませんか?」

「構わない」


美奈が意を決して言った言葉を則和は一言で返す。
第三者の目から見れば、それは何とも雰囲気の悪そうな感じがする。
だが、美奈の表情は満足していた。


ひゅっと、小さく音を起てて冷たい風が則和と美奈に吹いた。
則和は少し目を細めた。
美奈は少し小さな悲鳴をあげる。


「寒いか?」

「…ちょっとだけ」


今の時期、昼間は快適だが、夕方に近くなれば少し肌寒い。


「あの…缶スープ買ってきます」

「あぁ」


美奈は自販機の方を指差すと、トタタと音を起てて走っていった。
則和はその後姿を見ていた。
その間、彼は少し考え事をしていた。
風が冷たくなったので、少し目を閉じた。
そして、考えが纏まった…。


…なんで、こんな所にいるんだろう…?












目を開けた。
自販機の方を見ていた。
だが、そこにはいるはずの少女がいなかった。


「美奈?」


美奈が忽然と姿を消していた。
辺りを見回そうとした、その瞬間…。
二本のナイフが則和目掛けて飛んできた。
それを、後ろに飛んで避ける。


「……誰だっ」


飛んできた方向を見ると、そこには一見、普通の男が立っていた。
だが、美奈を肩に担いで…。


「の、則和さんっ!」

「……美奈を放せ」

「……ここで待つ、我は自由の剣」


そう言って、男はまたナイフを則和に投げた。
だが、さっきと違い、柄の所に何やら紙を結んでいた。
そのナイフを見て、掴む間に男と美奈はいなくなっていた。


「……あの、糞爺達め!」


続く


後書き


旧バージョンではなかった、美奈浚われるの巻です。
これの所為で、則和の本性…死神だと気づきます。
次回もお楽しみです。
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