心踊り出すような生き方を
第14話


By KEN






「…ここが則和さんの心の中」


美奈は何時の間にか、則和の心の中に来ていた。
立川に言われて、目を瞑って待っていたが、一瞬光が当たった感じがして、その後すぐにここに来た感じだ。
則和の心は、薄暗かった…。
彼の世界が崩れかかっている状態だと、美奈は思った。


「行かなくちゃ…」


彼の心には、一軒の家が建っていた。
表札には、望月と書かれていた。
きっと、彼の家なのだろう…。
美奈はそっとドアノブを回す。
ドアが開かれた…。


「なんにもない…」


玄関の奥は廊下があった。
そこには、誰もいなかった。
美奈は、奥へと歩いていく。


「…居間かな?」


広い居間には、物がほとんど置いてなかった。
テーブル、小さな一人座りのソファー…テレビ。
写真立てくらいだった…。
写真立ての写真を美奈は手にとって見つめた。


「則和さんと…お父さん達かな?」


小さな男の子と父親と母親らしき人物が写っていた。
だけど、あまり良い写真とは美奈はお世辞にも思えなかった。


「笑ってない…」


則和は笑顔を見せていなかった。
残り二人の人物は無理して笑顔をしているが、則和は本当に笑顔がなかった。


「どうして?」


美奈がそう言うと、テレビがいきなりついた。
そこに写っていたのは子供のころの則和だった。


「則和さん?」

『四月一日…小学校の入学式だった…父さんと母さんはいない。五月十五日…二人の親友が出来た…』

「これ…ビデオ日記?」

『六月十一日…誕生日だった…一人だった…何も変わらない平日だった。八月一日…一人で外を歩き回った』

「……」

『九月二日…友達がいなくなった。誰も僕に話しかけてくれない。十一月五日…父さんと母さんに怒られた』

「……」

『その後、僕は家出した。…誰も迎えには来てくれなかった。探してくれなかった』


美奈は目を瞑りそうになった。
則和の心の叫びが聞こえていた。
胸に刺すような痛みを感じた。


『もう…死にたい…。でも、怖い…消えたい…空気になりたい』


則和の姿は幼かった。
よく考えれば、小学生一年の時だと言う事がわかった。
そんな年頃で、こんな事を言えると言う事は、頭が良い事も分かったが、すごく可愛そうな環境で育ったのだと思った。


『今日も一人で朝ごはんの準備をした…。指を切っても、誰も手当てしてくれなくなった』


美奈は、涙を流していた。


『もう、包丁で指を傷つけても痛くなくなった。僕の心が入った入れ物が傷ついただけだから』


そう言って、見せしめなのか則和は手を切りまくった。
何回も何回も包丁で…。
血が滴る。


『昔は心と入れ物が連結していたけど、今はもう…繋がっていない。僕はもうここにはいない』

「やめて…」

『僕は、これからどうなるんだろう?誰も僕の周りにはいない…』

「やめて!」


美奈は目を瞑った。
溢れそうになっていた涙が流れ出した。
もう、せき止められない…。


『…父さん、母さん…』

「え…」

『ごめん…ごめんねぇ…』

『ごめん…則和…』


テレビの画面の中に、則和以外に則和の父親と母親が現れた。
二人とも、涙を流して、則和に許しを請おうとしている。


『来ないでよ…僕は、もう…二人に会うのは嫌なんだ…嫌いなんだ!近寄らないでよ!』


そう言って、則和は逃げようとした。
その瞬間に、則和の手を彼の母親が握った。
そして、強引に引き寄せて父親と二人で抱きしめた…。


『やめて!これ以上、僕に何もしないで!っ!』


則和はそう言って、母親の首筋に噛み付いた。
彼の母親は顔をしかめたが、抵抗はしなかった。
彼の父親も同様だ。
母親の首筋から血が出る…。


『離れろ!消えろ!僕に障るなぁ!』


蹴ったり、引っかいたり…。
その姿は野生の小動物のようだった。


『ごめんなさい…許してとは言わない…だけど、傍にいさせて!』

『嘘だ!絶対僕を裏切る!何もしないくせに怒る!そんなのうんざりだ!』

『もう、そんな事はしない…信じてもらえないかもしれないが、私達は誓う!少なくとも母さんだけは信じてやってくれ!』


暴れる則和を、先ほどと変わらず抱きしめている。


「お願い…信じてあげて…」


美奈もテレビの外にいたが、涙を流していた。
出来れば、自分も彼を抱きしめたかった。


『……信じても…僕は…傷つかない?痛くない?』

『あぁ…誓う…』

『私も…誓うわ』

『じゃあ、もう一度だけ…』

『『ありがとう…ありがとう…則和』』


二人は、涙を流してまた彼を力強く抱きしめた。
そんな時だ…ドンッと言う音がした。
そして、則和の父親と母親は倒れた…。
彼を抱きしめたまま…。


「え…ど、どうしたの?」

『ふっふっふ…見つけたよ…』

「この人…誰?」

『私を自由へと導いてくれる子供…さぁ、これを受け取りたまえ!』

『母さん!父さん!…ねぇ、起きてよ!』


則和がそう言って、画面が砂嵐になった。
その次に、家が崩れだした。


「え…な、なに!?」


家が一瞬のうちに消えて、また違う場所になった。
今度は、真っ暗で何も見えなかった。


「…ここが、則和さんの心の中なんだね…真ん中なんだね」


美奈は、そう思った。


「則和さーん!出てきてくださーい!」


大声で辺りに聞こえるように叫ぶ。
そうすると、美奈の目の前が光り、その光りが人の形になった。
それは、則和だった。


「則和さん…」

『美奈…』


美奈は、則和を見つめた。
則和の顔は、少し生気が抜けていた。


「帰ってきてください…」

『…それは、出来ない…俺は、するべき事を…全てなし終えた…このまま、死にたい…』

「まだです!まだ、終わってません!私達、家族と暮らすのが残っているじゃないですか!」

『俺の家族じゃないよ…もう、俺には家族なんていらない…俺がいるだけで、それは消えてしまうから』

「……」

『さぁ…そろそろ、俺の心も壊れる…早く俺の中から出て行くんだ』

「嫌です!則和さんが…あなたが起きないなら、私もここから出て行きません!」

『…出て行ってくれ』

「……まだ、則和さんが私につけた傷の責任とってもらったわけじゃないんですからね!」

『…っ』

「この傷、これからずっと残るってお医者さんから言われたんだから!それで、私、お嫁さんになれなかったらどうするんですか?」

『……』

「なれなかったら、ずっと恨みますよ!」

『俺に……何をさせたいんだ?』

「責任をとってください!ずっと…ずっとずっとずっと傍にいてください!」

『…馬鹿野郎』


そう言って、辺りが真っ白になった。
美奈は、何も見えなくなった…。


「私!…ずっと、起きるまで待ってますからね!!!」





























































「ぅん…ここ…」


知らない天井だった。
だが、横を見ると…立川先生の診療所だと分かった。


「あっという間だったな…」


外を見ると、どうやら朝のようだ。
美奈は、和利と君恵の姿を見つけた。
座り心地の良い、椅子に座って眠っていた。
美奈は、少し安心した。
二人とも大分無理をしているように、美奈は感じていた。
則和の寝ている部屋に行くと、昨日とは大分血色の良い則和が見られた。


「はぁ…起きてください…」


則和の手を握って…喋りかけた。


「起きないと…もっと、起きなくちゃいけないようにしますよ…」


美奈はそう言って、則和とキスをした。


「……こんなに、ドキドキするんだ…」


唇を押さえて、頬を赤くして則和を見た。


「私の初めてのキスを奪ったんだから…責任とってもらわなくちゃ…」

「アホ…奪われたのは…俺の方だろ…?」

「あ…」


美奈の目から涙が溢れる。
美奈が握っていた手に力がこもる…。


「…よう…随分、長い間…会ってない気がする…」

「そう…ですね」

「……責任とってやるよ…」

「うん…絶対ですよ」


続く


後書き


よし、あとちょっとです。
と、言うか…次回で最終回になる可能性があります。
宴会より、二話ほど短くなっていますね。
短く収められてよかったです。
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