心踊り出すような生き方を
第11話


By KEN






則和が美神家に来て一ヶ月が過ぎた。
一応、上辺では則和と美奈の関係は普通の状態を保ったままだった。
美奈は、則和に対して接し方を変えなかった。
逆にそれで、則和が困惑した。


「はぁ…本格的に寒くなってきましたね」

「そうだな」


美奈は微笑みながら則和に喋る。
その様子を見ると、則和も少し顔が綻びそうだった。
だが、今の自分には笑う事もさせなかった。


「ここの地方は雪が必ず降るんですよ。だから、ちょっと得したかな」

「そうなのか?」

「はい。だって、綺麗じゃないですか」

「…氷の粒がか?」

「ロマンですよ。なんだって、良い方向とらえれますし。寒いのだって、温かいお鍋が美味しくなるとかって」

「……」

「それに、お洒落な服も変わるし。お風呂だって何時までも入りたくなるし」

「そうか」


則和は堪え切れなくて少し笑った。
それを見て、美奈は頬を膨らまして拗ねた。


「むぅ、馬鹿にしてます?」

「いや、そう言う生き方って羨ましいなってな」


則和は思わず本音が出た。
自分の生き方を曲げてきた彼には、羨ましかった。


「そう言えば、今日から部活が短くなるんだろ?」

「はい。部活と言えば、則和さん勿体ないですよ」

「…何がだ?」

「あんなに運動出来るのに帰宅部なんて。勧誘たくさん来たんじゃないですか?」

「相撲部以外はな」

「あはは、流石に則和さんには合わないですよ」

「そうだな。お前は相変わらずバスケ馬鹿か?」

「むぅ、まぁ、そうです。…でも、悔しいなぁ、私より則和さんの方が上手いんだもん」

「見よう見まねだ。細かく見ればお前の方が上手いよ」

「そう…ですか?」

「そうだ」

「うん、私、頑張ります」


則和は、この一ヶ月、夜に外を出歩かなくなった。
それは、人殺しをしていないと言う事だ。
だが、それも今日までとなった。


ヒュォォ…。


いきなり突風が二人を襲う。


「…なんだ!?」


則和は目を細くして辺りを見回す。
そこには一人の大男がいた。


「お前は…あの時のっ!」

「あぁ、そうだな。君を迎えに来た。決着をつけるためにな!」

「…望むところだ」


そう言って、男の方に則和は一歩前に進んだ。


「駄目です!行かないでください!」

「……美奈」

「邪魔ですよ、お嬢さん」

「な、なんなんですか、あなた!則和さんは普通の人なんです!あなたみたいな異常者じゃないんです!」

「ふぅ…仕方ありませんね」


男は懐から取り出した拳銃を美奈の方に向ける。
そして、躊躇いなく発砲する。
キィンと鈍い金属音がする。


「こいつには手出しするな」

「仕方ないじゃないですか、お嬢さんを黙らすには良い方法でしょう?」

「あ…あ…」

「美奈、お前は一人で家へ帰れ」

「い、嫌です!」

「……帰れ」


則和は、美奈に銃口を向けた。
美奈は、その行動にヒッと悲鳴をあげる。


「スマナイ。…お前の事は、少し気に入っていた。…さようならだ」


ドンッと音がした。
その音と共に、美奈は倒れた。


「……今、救急車を呼びました。さぁ、行きましょう」

「あぁ」




























































「う…ぅ…ん…」


美奈は暗い海の底から浮き上がった。
少しずつ目を開く。
天井は真っ白だった。


「美奈…大丈夫か?」

「お…父さん…お母さんも?」

「大丈夫?」


美奈はぼ〜っとする頭で考えた。
辺りは真っ白で、何処となく清潔という言葉を強調している感じだった。
だから、分かった。
ここは、病院だと…。


「私…どうして?」

「…覚えてないのか?お前は学校からの帰り道、銃で撃たれて倒れていたんだよ」

「銃?」


美奈は、意識が切れる以前のことを思い出そうとする。
そこには、則和に撃たれた自分がいた。


「そっか…私、則和さんに…」

「ああ…彼には珍しく命には別状のない撃ち方をしたみたいだがな」

「そっか…」

「少し、休みなさい」

「……」

「私は、先生に目が覚めたと言ってくるから。何かあったら母さんに言いなさい」

「うん」


何も考えれなかった。
頭の中が真っ白だ。
何も考えれない。
思い出せるのは、則和に撃たれた事と、少し嬉しかった言葉。
自分の良いように解釈しているかもしれないけど、嬉しかった言葉。
だけど、撃たれたと言う現実。
そして、どこかに消えてしまった。






























朝になった。
美奈の隣には、眠ってしまった母だけだった。
則和は帰ってこなかった。
その現実に美奈は押しつぶされそうになった。


「則和さん…」


少し重い雰囲気になっていく。
もう、辺りが明るいのに真っ暗になる感じがした。
だが、…それを途絶える事が起きた。
コンコン…と、病室のドアがノックされた。


「はい、いいですよ」

「検温で〜っす…なんてね」


そこに現れたのは、詠子だった。
美奈はそれを見て、少し顔をほころばす。


「那珂沢先輩…」

「大丈夫、怪我?」

「え、あ、はい…」


肩に巻いてある包帯で傷の具合は良く分からないが、時折、鈍い痛みが生じた。
だが、我慢できない程度じゃない。


「ったく…馬鹿ねあいつも」

「え…」


詠子は少し冷たい目で言った。
突然の言葉に美奈は少し驚いた。


「…歩ける?」

「うん」

「ちょっと、ここだと、おばさんが起きちゃうしね。…多分、知っているんだろうけど…」

「だろうと思います」

「ま、いいわ。行きましょ」












小さいベンチに二人は腰掛けた。
そして、詠子はポツリポツリと言葉を紡いだ。


「ある所にね、一人の男の子がいたの。その子は優等生で、人を引き寄せる明るさもあったの。
だけどね、彼は孤独を感じていた。誰も頼れないから。人を引き寄せる力があっても彼は駄目だった、どうしてだと思う?」

「え…」

「頼られても、頼れないのよ。身体に鞭を打って、彼は生きてきた。そして、一つの拠り所を彼はあてにしていた。
それは、両親の絆。途中で絆の糸が切れそうになったけど、それを持ち直した。その時よ…」

「……」

「彼の両親が殺されて、彼は壊れた。誰も頼らなくなった。生きる希望は敵討ちになった。それが、今の彼よ」

「そんな…」


美奈は悲しそうな顔をする。
詠子は、それを気にせず続けて言う。


「…ここからは、私の視点だけど…彼は、変わったと思ったわ。なんて言うか、人当たりがよくなった」

「はい…私もそう思います」

「気づいている?…あなたに一番、良い顔をするのよ」

「え…そ、そんな事ないですよ。だ、だって、那珂沢先輩にだって…」

「まぁ、あたしには社交辞令じゃない?貴重な情報提供者だもの」

「え?」

「あたしも、彼と同じ世界で生きている。まぁ、これからは彼が生きていた世界ね。……幻滅した?」

「……いいえ。先輩は先輩ですから」

「彼は帰ってくるわよ。今のあなたが出来ることは元気になって笑顔で迎える事」


ポンッと肩に手を置いた。
そして、詠子は言った。


「もっとも、あなたが見限ったら、あたしが貰っちゃおうかな。良い相棒になりそだし」

「そ、それは…だ、駄目です」

「うふふ…少し元気が出たわね」


続く


後書き


いや〜、終盤も結構変わりましたね。
と、言うか則和の仇って名前もまだ出てないんですよね。
詠子も気を使って組織の名前を教えなかったし。
…どうしよう?

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