ぼくたちは、恋していく。 初恋(後編) By KEN
『あの・・・信士君・・・』 『どうしたの、綾波?急にかしこまっちゃって?』 『う、うぅん。あのさ、後で屋上にきて』 これは、ぼくの嫌な記憶だ。 嫌な思い出だ。 嫌な過去だ。 嫌な嫌な嫌な・・・。 『・・・うん、分かった』 この時の綾波は何となく怖かった。 ぼくを一点に見つめて・・・ぼくしか見てないから・・・。 世界にぼくと彼女しかいないみたいで、怖かった。 『何、話しって?』 『うん、私、信ちゃんの・・・信士君の事が・・・好き』 屋上で、風が強い場所で・・・。 あぁ、目が痛い。 なんで、目が痛いんだろう・・・? 『う、・・・うん』 何で、ぼくに抱き着くんだろう? そうか・・・ぼくが『うん』と言ったからだ。 その瞬間は今でも忘れない。 だけど、怖かった。 嬉しかった・・・。 何故だか、悲しくなった。 「どうしたんだい、信士君?」 「ん・・・昔の事思い出してたんだよ」 「そうかい・・・」 「うん」 「今日は・・・驚いたよ」 「ぼくも・・・委員長に言われるまで、避けてた」 「流石は・・・第三高校の母だね」 「はは・・・そうだね」 ぼくと薫君は、誰もいない音楽室にいた。 夕日が差し込んでいて、部屋の中が真っ赤になっていた。 音楽室に貼ってある歴代の音楽家の写真が何か違う感じに見えた。 何ていうか、全ての物が悲しく見えた。 「君の時も、僕の時もこんな夕日だったよね・・・」 「・・・そうだね」 何時もにこやかな薫の笑顔さえも夕日のせいで、寂しそうで悲しそうな笑顔に見えた。 「僕はまだ立ち止まったままだ」 「ぼくもだ、ぼくは・・・歩いているふりをしている」 「・・・・・・行こうか・・・?」 「うん。・・・行こう、薫君」 『あの・・・渚君』 『なんだい、麗ちゃん?』 『屋上に来てくれる?』 『いいよ』 その時の僕は好きな女の子に誘われて舞い上がっていた。 だけど、何故だか知らないけれど悪い予感がした。 僕は、そう言うのがよく当たる。 『渚君・・・好きです』 『・・・・・・麗ちゃん・・・』 こんな彼女が嫌だった。 僕は、知っていた。 彼女が、信士君の事が好きな事を。 そして、彼女が信士君に『好き』と伝えた事を。 一瞬、何を言っているのか分からなかった。 彼女が、とても嫌な存在に感じてしまった。 『き・・・君は、信士君が好きなんだろ?』 『好き・・・でも、渚君も好き。・・・どっちが好きか・・・なんて比べれない!』 『・・・・・・』 『だから・・・』 ・・・。 その後の事はあまり覚えていない。 偶然なのか・・・必然なのか・・・。 信士君が来たんだ・・・。 僕は、唖然とした信士君を連れて帰った。 何か、背中越しに麗ちゃんが何かを言っていた気がした。 それさえも、聞こえなかった。 僕と信士君は無言なのに・・・。 辺りは静寂の間だったのに・・・。 僕たちは、何も聞こえなかったんだ・・・。 「こうして・・・ちゃんと三人で会うのは久しぶりだね」 「・・・ええ」 ぼくは今、どんな表情なんだろう。 そして、綾波はどんな表情なんだ? ・・・これは、どんな表情? 寂しいの?悲しいの? 「あの・・・さ、麗ちゃん」 「何、渚君?」 「僕達、昔に戻ってみないかい?」 昔に戻る・・・。 それは、ぼくも望む事。 それは、ぼくも求めているけど、何故だか嫌だと思う。 もっと、苦しんで欲しいって思うのは何でだろう? 「・・・それは・・・できない」 「何でだよ、綾波?」 「・・・アナタ達に酷い事をしたのを確か。これは私の罰。だから、ずっとこの私を続けていく」 「・・・今の物静かな君?冷静な君?皮肉っぽい君をかい?」 「・・・ええ」 「ぼくは・・・嫌だ。昔の元気で明るくて、おっちょこちょいで、人懐っこい君が好きだ・・・」 昔の綾波はそうだった。 彼女がこうなったのは、薫君に告白した次の日からだった。 少し、ぼくは胸が痛かった。 「・・・碇君・・・もしかしたら、これが私の本当の姿かもしれない・・・」 「・・・・・・」 「だって、私・・・こんな私を続けてきて・・・もしかしたらこれが私かな・・・って思ったの」 無表情な顔が辛かった。 せめて、何か表情を出して欲しかった。 「じゃあさ・・・麗ちゃん」 「・・・何?」 「「試してみようよ・・・元気で明るくて、おっちょこちょいで、人懐こい君が好きって!」」 「・・・うん」 綾波・・・。 「うん・・・うっ・・・っ・・・や・・・ってみる・・・」 涙を流した。 綾波の表情が・・・見れた。 「・・・やってみる、信ちゃん・・・渚君」 笑顔を見せながら・・・。 「そして・・・ありがとう・・・二人とも。そして、ゴメンナサイ」 「・・・ふぅ・・・」 今日は、疲れた。 何となく・・・心が軽くなったのは確かだ。 だけど、本当に疲れた。 もう外は真っ暗だった。 「・・・星が見える・・・」 第三新東京都市・・・。 都市と言うわりにはまだ、まだ辺りは暗い。 まるで、田舎のように・・・。 街灯はほとんどない。 辺りの人も優しい。 「結構、大雑把だしね・・・」 少し笑ってしまった。 「もし・・・母さん達が住んでいる所じゃあ、補導されるだろうなぁ・・・」 学校の裏にある丘の上の展望台。 先ほどまで天文部が星の観察に来ていた。 何時の間にかぼくは一人ぼっち。 「はぁ・・・」 こんな時・・・。 やっぱり、家族っていいもんだなぁ・・・って思う。 父さんと母さんは仕事で今は離れ離れ。 一人暮らしにも、もういい加減なれた・・・。 何だか・・・明日香に会うのが怖くなってきた。 綾波の笑顔に・・・少し・・・胸が高鳴った。 そして、怖くなった。 昔に戻る事に・・・。 もしかしたら、昔に戻る事を望んでいるかもしれないから。 だって、まだぼくの事を好きかもしれないと・・・少し期待しているかもしれない・・・。 だから、こんなぼくは嫌いだ。 とても、怖い。 「し〜んじ」 「・・・あ、明日香?」 「んふふ・・・来ちゃった」 目の前には、明日香がいた。 どうして、ここに明日香が・・・。 「駄目だよ・・・女の子がこんな時間に出歩いちゃ」 「ま、そうだけどさ・・・麗に言われたのよねぇ・・・」 髪の毛をかきあげながら、言う。 何処か府に落ちない事があるって感じだ。 「それに、何かさ・・・何時もの麗とは違ってさ。明るかってゆーか、何てゆーか」 「・・・・・・ゴメン・・・」 「ん・・・どうしたの?」 思わず立ち上がり、彼女を抱きしめてしまった。 何故か、今まででは考えられないほど・・・。 ギュッと・・・彼女に全身で触れたって感じに・・・。 「ちょ、信士・・・痛いって」 「・・・ごめん・・・ごめん・・・明日香・・・ごめん」 何でだ? ぼくは明日香が好きじゃなかったのか? 明日香を彼女に置き換えていただけなのか? 違う・・・。 違うんだ・・・。 本当に違うんだ・・・。 「・・・信士・・・」 彼女の優しい声が、少し辛かった・・・。 だけど、凄く嬉しかったのも・・・本音・・・。 「ゴメン・・・明日香」 「ん〜ん。アタシは信士に謝られる事・・・されてないもん」 「ぼくは・・・ぼくは、凄い優柔不断なんだと思う」 優柔不断・・・。 それが、ぼくを現すには一番言い言葉かもしれない。 「明日香が思っているより、凄く優柔不断で、臆病で弱虫で・・・何も自分じゃ決めれない・・・」 言いたくない言葉・・・。 それが、何でか知らないけれど・・・。 ぼくは声に出してしまっていた。 彼女に伝えていた。 「明日香にはあまり知られたくなかった。なんか、嫌われそうで・・・。明日香に初恋の事聞かれて・・・思い出して・・・」 「・・・うん」 「その人の事が・・・今になって、ホントにまだ好きかもしれない・・・って思っちゃって・・・。かっこ悪いよ・・・」 「うぅん・・・そんな事ない」 否定してくれる明日香が嬉しかった。 だけど、言いたかった・・・。 「ぼく・・・中学生の時、綾波と付き合おうと思っていた・・・。綾波から告白してきて嬉しかった・・・」 「うん・・・っ」 「ぼくは・・・綾波とは幼馴染だったから、ホント・・・自然と好きになっていた」 ・・・涙が何で出てくるんだろう? 走馬灯のように、昔の風景が浮かぶのは何故? 「何てゆーか、映画とかドラマとか漫画とか憧れている物みたいな物になりたかった」 あの頃は、ホントに「見る」物が好きだった。 ただ、表面的に見るだけだったし・・・。 それで全部を理解していると勘違いしていた。 「でも・・・現実は違った。綾波にはもう一人好きな人がいたんだ・・・」 「・・・」 「薫君なんだ・・・。ぼくに告白してから、すぐだった。彼女が告白したのは。その時、悲しかった、辛かった」 「・・・信士」 ・・・涙目の明日香・・・。 それがまたなお辛かった。 「だけど・・・まだ、好きだったかもしれない!今日、薫君とぼくと綾波で・・・ちゃんと仲直りした」 「・・・・・・」 「全部、まだぼく達は子供だった事にして・・・仲直りした。そしたら・・・昔の事思い出して・・・」 「もぅ・・・いいよ・・・」 「今更だよ・・・。今更・・・。ぼくは明日香が好きなのに・・・綾波に・・・」 「信士――」 「!――」 明日香がキスをしてきた。 何だか・・・。 「くそぅ・・・ちくしょぅ・・・ちくしょう!」 「信士・・・」 「ぼくはずっと・・・明日香の笑顔が見ていたかったのに・・・ずっと笑顔でいてほしかったのに、いっつも困った顔する」 それは、全てぼくの所為。 嫌だ・・・。 もう、明日香を抱きしめる事を止めて・・・頭を抱えて・・・後悔する。 「馬鹿・・・馬鹿信士!」 「・・・!」 「いっつも困った顔をしているのは信士だ!すっごく色んな事考えて、背負い込んで!」 「・・・・・・」 「アタシが困った顔ばかりしてる?ちゃんとアタシの顔見てる?アタシだって悩んだりするんだ!ずっと笑顔の奴なんていない!」 「・・・・・・」 「アタシだって信士が笑って欲しいから悩むんだ!困った顔をするんだ!」 明日香の涙・・・。 少し怒ったような表情が・・・辛いけど・・・。 何だか温かい。 「アタシは、信士の彼女だ!彼女だ!彼女なんだ!悩んだらアタシに相談して!」 「あ・・・」 「もし、不安になったらアタシを呼べ!アタシにできる事ならなんでもする!お料理も!勉強も・・・それに、Hな事だって!」 「え・・・あ・・・う。い、いいの?」 「うぅ・・・恥ずかしい事言わさないでよ!好きな人とだったら、ドキドキする事したいに決まっているでしょ!」 自分の顔がどんどんと赤くなってくるのが分かった。 「それに、信士が迷っていたら、アタシがそんな不安を吹き飛ばす!アタシが信士にアタシだけを見つめさすようにする!」 「うん・・・」 「だから・・・ずっと・・・一緒にいてよぉ・・・」 明日香がその場で座り込んで泣き出した。 ぼくは・・・恐る恐る抱きしめる・・・。 ちゃんと、明日香もぼくの背中に手をまわしてくれのが嬉しかった。 少し・・・強く・・・抱きしめた・・・。 「ごめん・・・明日香・・・」 小さく呟いた・・・。 「ぼくも、そうした。一緒に悩んだり、相談したり・・・その、スケベかもしれないけど、Hな事も・・・」 「うっ・・・ぇ・・・スケベ信士・・・」 「・・・明日香だってだろ?」 「・・・・・・」 「ごめん・・・そして、ありがとう。・・・ぼくは・・・明日香が好きだ・・・」 「信士〜、疲れたよ〜、眠いよ〜」 「もう、頑張れ明日香!」 相変わらずぼく達はこんなんです。 でも、何となく変わったかもしれません・・・。 「信ちゃ〜ん!明日香!お先に〜〜!」 少し心が軽くなって・・・。 少し、世界が広がった感じがして・・・。 何となく・・・嬉しくなった。 「あ〜!麗、待ちなさいよ〜!」 Fin. 後書き やっと、書き終えれました。 次回は、どうしようかな? 今のとこ、まだ考えてないです。 感想はこちら 掲示板にもどうぞ。 KEN
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