心踊り出すような生き方を バースディ By KEN
「もうすぐ誕生日なんです」 その一言が、始まりだった。 「は、はい・・・」 「・・・・・・」 私の言葉に則和さんは目を丸くしながら、同じ言葉を繰り返した。 三月七日は私の誕生日だ。 三月七日生まれだから、「みな」なのかと思われるが・・・。 それは、違う。 私の名前は「美奈」なのだ。 生まれる以前から考えてあって、日付が偶然一致しただけだ。 よくみんなから安易に決められたなと言われるけど、違う。 そんな事を、今更言っても仕方がないけど。 「・・・・・・」 則和さんは、無言で考え込んでしまった。 私の誕生日を祝ってくれるのかな? そう言えば、美亜ちゃん・・・。 今年も彼女は来るのかな? 美亜ちゃんは私に従姉妹だ。 毎年、私の誕生日になると、私の家に遊びに来てくれる。 モチロン、私も美亜ちゃんの家に行く事もある。 長い休みに入ると私の家に来たり、美亜の家に行ったりする。 今年の冬休みは、私が美亜ちゃんの家に行く事になっていたけど、則和さんと一緒にいたため、美亜ちゃんの事はすっかり忘れていた。 でも、ホントに美亜ちゃんと一緒にいると楽しい。 だって、私と美亜ちゃんは・・・。 もう気候が春に近づいてきた・・・。 外に出る時も少し薄着になった。 太陽の光も優しい。 最近、一人になりたい時は、近くの公園に聳え立つ木。 その木の根元に腰をおろしている。 考え事や昼寝をそこでしたりする。 今日は、考え事だ。 ちょうど、学校もない。 考える時間はたっぷりある。 ・・・今日、考える事は誕生日の事だ。 実際の所、バースディパーティなんて言われてもピンとこない。 モノをあげるにしても、貰った事もない・・・。 知識は持っていても、自分では実践した事もないし、された事もない。 毎日、独りで生きていたからだろうか? そういうもの、誕生日なんて無縁のものだった。 「かと言って・・・独りで祝う奴はいない」 大勢の人がいて、誕生日はありがたみをを増す。 プレゼントが貰えるというものではなくて、祝ってくれる人がいるという意味でだ。 きっと、美奈は、今まで多くの人たちと誕生日を祝ってきたんだと思う。 自分には、いないから・・・。 少し、美奈の事を羨ましく思う。 『や、やめなさいよ!』 「・・・・・・?」 少し眠ってしまっていたらしい。 温かく眠るには最高の条件が揃っているのだから、仕方がない。 『いいじゃねぇかよ!茶付き合うだけって言っているじゃねぇか!』 何時の時代も、不良と言う輩はいるらしく、今、向こう側にいる男もそれ類の人間らしい。 『た、助けて』 それよりも、何で自分はそういう類の人物によく会うのかが分からない。 まぁ、それはいい・・・。 声を張っていた少女も声の調子が弱くなりだしていた。 「・・・・・・」 コートの内ポケットを探った。 久しぶりにアレを手に持つ。 重量感が手に伝わる。 少し頭の周りだけ重力が軽くなったような錯覚に襲われる。 『ホラ、ネェちゃんよ!』 「い、嫌よ!」 かなりしつこいと思った。 「・・・おい」 『あぁ、なんだぁ!?』 振り向き、言い表しのできない醜い顔を見せる。 「・・・・・・」 『ギャッ!?』 一瞬、男は痙攣して倒れた。 ・・・どうやらこの銃はスタンガンの代わりにもなるらしい。 大分前の事だが、銃の整備をしていた時、偶然に奇妙なスイッチを引き金の側にあるのを発見した。 この銃のセイフティ機能を攻撃に応用させれるようだ。 親切な事に電力の強さのめもりまでついていた。 きっと、神山の時の戦いで一部のパーツが破損して外れたのだろう。 それこそが、この銃の本当のセイフティだったのかもしれない。 自在に電力を銃口、銃身に流し、銃弾を発射する、レールガン。 きっと、この銃は恐ろしい殺傷能力を発するだろう。 俺をさらに強くするために・・・。 もしかしたら、俺はこの銃、裏の世界から逃げられないかもしれない。 「あ、あの・・・」 「っ・・・何だ、美奈だったのか」 「え、あの、私・・・」 目の前にいた少女は美奈だった。 「まったく・・・出歩くにしても不用心だぞ」 「う・・・」 バツが悪い顔をする。 「そ、そうじゃなくて!」 「この前もそうだし、無鉄砲すぎる」 「うぅ・・・」 どんどん小さくなる美奈。 「って!私、あの美奈じゃない!」 「・・・?」 少し目を凝らして見てみた。 「・・・あ」 よく見ると髪の毛の色が違った。 美奈は茶髪だったが、目の前の少女は黒髪だった。 「・・・悪い人違いみたいだな」 「あはは、いいわよ。美奈にはよく間違えられるもの」 「美奈を知っているのか?」 「ええ、私、美奈の従姉妹だから」 「なるほど、納得だ」 「私、美月 美亜!」 少し頭を下げる。 こういう所まで美奈に似ていた。 唯一の違いと言えば、彼女の方が活発な少女くらいだと思う。 「・・・俺は、望月 則和だ」 俺と、美月は美神家に向かう事にした。 割と人懐こい奴なので、俺には、少し苦手なタイプだった。 「もっちーって美奈の何なの?」 「・・・恋人」 何時の間にか、変な愛称までつけられていた。 それよりも、多少照れる事を言ってしまった。 下手に彼女の前で下手な事を言うと、この後美奈に何を言うか分かった物ではない。 下手に隠すと美奈がへそを曲げるような気がする。 「うぅ、やっぱそっかぁ」 「・・・?」 「むぅ・・・美奈の方が先に恋人ができるなんて・・・」 「・・・・・・」 かなり悔しそうな顔をする彼女。 「・・・そっか、今日は美奈の誕生日だしね」 「・・・ああ」 「どするの、もっちーは?」 「・・・分からない」 その話題は駄目だった。 どうしても答えが見つからない。 「ふぇ・・・どうして?」 「俺は今まで俺の誕生日に特別な事をしていた訳じゃないし、まして他人の誕生日をどう祝えばいいか分からない」 「特別な事か・・・パパやママとかがプレゼント貰ったりとかは?」 「俺には両親がいないからな・・・。それに小さい頃も仕事でいなかった」 「あ・・・」 バツの悪い顔をする。 少し、軽はずみな物言いをしてしまったと、思ってしまったのだろうか? 「・・・気にする事はないさ」 「・・・うん、ありがと」 「だから・・・どうすれば、喜ぶのかも分からない」 「・・・」 「俺自身は誕生日なんて、何も良い事がなかったから、誕生日の嬉しさなんて分からない」 もし、一人でやっても虚しいだけだ。 だから、しないし、無視する。 そんな日は元々なかったように。 「それじゃさ、私が協力したげる」 「?」 「だから、誕生日が楽しいって事」 「・・・俺の誕生日じゃないぞ」 「自分の誕生日じゃなくてもさ、嬉しさや喜びは伝わると思うよ」 「・・・そうか」 そう言うと、彼女はパッ明るくなり、俺の腕を引っ張る。 「じゃ、まずはプレゼント用意しよ!」 「分かった」 俺達は家に帰る前に滅多に行かない商店街へと向かった。 「美奈〜っ!」 「あ、美亜ちゃん!」 家に帰ると、美奈は外に出ていた。 どうやら美月が来る事を知っていたようである。 ・・・そう言えば、特別な日や休みの時はお互いの家に集まるって言っていたな。 「久しぶりだね」 「うん。そう言えば、冬休みは来なかったじゃない、どうしたの?」 「えっと・・・それは・・・」 「まぁ、想像つくけどねぇ・・・。女の友情なんてそんなもんだしぃ」 「あ、あはは・・・」 少し照れる美奈。 「あ、則和さん・・・」 「・・・よう」 片手をあげて挨拶をする。 「二人おお何処で会ったんですか?」 「・・・偶然な」 少し不思議そうな顔をする美奈。 「ほら、もっちー」 「・・・ああ」 美月が急かす。 どうやら、商店街で教えてもらった事を実践しろと言っているようだ。 まぁ、教えて貰ったと言うか、強引な知識の提供なんだろうが。 「美奈・・・」 「え、あ、はい!」 「これから、ちょっと外に出ないか?」 「え・・・?」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 少し薄暗い道。 珍しく俺達は横に並びながら歩いていた。 何時もは引っ張っている手もただそっと握っているだけ。 何となく新鮮だから、少し照れる。 今、向かっている場所は、美奈にはまだ秘密だ。 「何処に行くんですか?」 「ん・・・ちょっとな」 美奈も一度は来たことがある場所だ。 「ここは・・・」 小さなベンチ、小さな滑り台とブランコがあるだけの公園。 この街に住みはじめて、毎日暇な時はここで過ごしていた。 そこで、美奈と初めて出会った。 「・・・美奈」 「・・・はい」 少し公園を懐かしんでいた俺、多分美奈もだろう。 少し頭を切り替える。 彼女は返事をして、自分に向き直る。 「今日、お前の誕生日だな・・・」 「は、はい」 「俺は・・・誕生日って言われて何も思い浮かばなかった」 静かに淡々と話す。 「だから、嬉しそう・・・期待しているお前が不思議だった」 「・・・・・・」 「美月にも聞いた。少し分かった気がした事もある・・・」 「・・・それは?」 コートのポケットからある物を取り出す。 「祝われた気持ちは分からない。けど、祝いたい気持ちは少し分かったんだ」 それを静かに渡す。 そっと、それを握り締めさせる。 美奈は握り締めたそれを静かに開いて見つめる。 「あ・・・」 「・・・まぁ、その、気に入ったら貰ってくれ」 「・・・はい・・・」 少し目を潤めていた。 胸が高鳴る。 そっと俺の渡したそれを首につける。 「・・・どうです?」 「ああ、似合っていると思う」 プラチナチェーンの細くシンプルなデザインのネックレスをつけて言う美奈。 胸元には、ネックレスに通しておいた二つの指輪がある。 別に大それたものじゃない・・・。 ただの飾り。 ライオンの鬣をデザインした指輪とただの普通のシンプルな指だ。 何となく、自分と美奈に似ていると思った。 俺は、ライオンのように強くあろうとして、着飾る。 美奈は、シンプル、ありのままの自分を見せている、そんな強さ。 「ありがとうございます」 普段見た事のない彼女を見た気がした。 恥ずかしがっているような、少し怖がっているような顔を見せる。 そして、笑顔を見せる。 目眩を感じた。 「っ・・・俺は緊張すると口数が多くなるらしい」 ライオンのように、着飾っている。 だけど、強くない。 一度でも強い衝撃が来れば、ボロボロと剥がれ落ちてしまう。 「少し待っててくれ・・・元に戻るから」 一刻も早く服をきたかった。 そして、この緊張をときたかった。 もし、今目の前に冷水があったら、それを頭からかぶるだろう。 強い冷たい風が吹いていたら喜んであたりに異句だろう。 だけど、生憎、そのどっちもはこの辺りにはなかった。 「駄目ですよ!」 さらなる追い討ち。 そして、温かい感触が伝わる。 「少し嬉しいんです」 「?」 「アナタが私のために緊張してくれて、そして、私だけが緊張しているんじゃなくて」 胸から響いて伝わる、美奈の声。 少しまた緊張の度が高まった気がした。 「緊張・・・?お前が?」 「むぅ・・・」 少し茶化してみた。 自分の望んだ反応が少し安心感を与えた。 「でも私は・・・」 「?・・・っ」 唇に触れる温かい感触。 「緊張すると、大胆になるみたいです」 「ば、この馬鹿美奈!」 「うふふ」 俺の反応が面白いのか、笑顔が絶えない。 それはそれで嬉しいが、少し悔しかったりする。 こうなればこっちも開き直る事にした。 「俺も・・・お前に対してはそうかもな」 「え・・・?」 美奈の背中に左手をまわした。 もう一方の手を首の後ろに持っていく。 「え?あ?ちょ、ちょっ」 「仕返しだ」 「っ―」 有無を言わさず、強引に美奈にキスをする。 少し抵抗したが、しだいに大人しくなっていく。 「・・・則和さん・・・」 「・・・?」 「大好きです!」 「・・・俺もお前が・・・好きだ」 多分お互い顔を真っ赤にしていると思う。 全身が熱い・・・。 まるで、火をふいているような感じだ。 美奈もそうなのだろうか? 抱き着く力は強くなって、俺の胸に顔を埋めている。 だから表情は分からない。 もう少しの間こうしていたかった。 「家に着いたら大変ですね」 「そうだなぁ・・・」 だけど、少しワクワクと言うような期待感も嬉しさもあった。 きっと二人だけしか知らない秘密。 今まで何をやっていたか、二人だけの秘密。 まるで犯罪者になって、その罪を隠している時のドキドキ感のような感じだ。 ただ唇を重ねるだけの行為だけどそれがそう感じられた。 「美亜ちゃんもお母さんと一緒にお料理つくって待っているし」 「料理か・・・」 チラッと美奈を見た。 美奈は後ろ歩きをしているのでこちらの視線が分かる。 だが、いつ転ぶかが心配でならない。 そういう奴だ。 「むぅ・・・どうせ私はお料理できませんよ」 「別に俺はそんな事は言っていないぞ」 「うぅ・・・」 少し拗ねた。 だけど、この反応が面白くて止められない。 「まぁ・・・気にするな。もしもの時は俺がつくる」 「それも、問題です!」 「何で?」 「女の子のプライドが丸潰れです!」 「クックック・・・」 声を殺して笑った。 「もぅ!」 「あはは」 美奈は、俺が笑った事に少しむくれてしまいクルッと振り向き足早に歩いた。 俺もそのスピードに追いつくように歩く。 ポンッと美奈の頭の終えに手を置く。 「今度教えてやるよ」 「・・・はいっ」 手を繋いだ。 お互いの手は少し冷たかったけれど、何故だか温かく感じた。 「お帰り二人とも!」 美月が出迎えてくれていた。 チラッと俺の方を見てニヤリと笑う。 もしかしたら、彼女には頭が上がらなくなるかもしれない。 「うん、ただいま」 美奈は何も知らないので、何時ものまま・・・だと思う。 「みんなも来てるんだから早く入って入って」 急かすように美奈の背中を押す。 「美奈、誕生日おめでとうーっ」 「おめでと〜美奈ちゃん」 「いや〜めでたいハッピーバースデー」 「おめでとう」 「ハッピーバースデー」 「おめでとう美神さん」 未幸、亜弥、俊樹、広夢、祥子、あゆみがにこやかな笑顔で美奈に言う。 「ありがとう、みんな」 美奈も少し照れたような表情を見せているけれど、笑顔だ。 「はいよーっ、料理できたぞー!」 エプロンをして長袖の服を腕まくりした姿の美亜が出てくる。 「じゃあ、美奈の誕生日に祝してカンパーイ!」 短いような長いような一日が終わった。 だんだん意識が消えていく。 もうじき、眠りにつく。 そんな時だった・・・。 ギィ・・・ とドアが開いた。 いい加減この軋む音を直した方がいいかもしれない。 しばらくすると布団の隙間から風が入ってきた。 だが、すぐに何だか温かい感触が伝わる。 「起きて・・・ないよね・・・」 小声で、喋る。 ・・・この時点で起きない奴はいないと思うが・・・。 「おい・・・」 「きゃ!?・・・お、起きてたんですか?」 「起された」 美奈だった。 「美月はどうしたんだ?」 「美亜ちゃんは・・・あはは」 「ふぅ・・・」 思わず溜息が出てしまった。 「まぁ・・・いいけど・・・どうしたんだ?」 「えっと・・・その・・・」 「ん・・・?」 「一緒に寝ちゃ駄目ですか?」 「・・・何故?」 「だって、未幸とか美亜ちゃんとかが誕生日の日に恋人と一緒に眠るのは当たり前だって」 「・・・どんな一般常識だ」 少し頭痛がした。 ・・・まぁ、確かに一緒に寝るのはいいが・・・。 「・・・はぁ・・・いいぞ。だが、俺はもう寝る。話なんてしないぞ?」 「はい・・・あの・・・」 「ん?」 「手・・・握っていいですか?」 「ん・・・」 言われたとおり、美奈の手をそっと握る。 「ありがとうございます・・・」 「いいさ・・・誕生日だろ?」 「・・・はい」 「だから・・・気にするな」 「ありがとう・・・」 「ああ・・・」 やはり美奈は美奈。 そっと空いている手で頭を撫でる。 気持ち良さそうに目を瞑る。 「おやすみなさい」 「ん・・・お休み」 まだ、眠ってもないのに何処か夢見心地だった。 空いていた手は、何時の間にか撫でるのをやめて・・・美奈の肩を抱いていた。 伝わる温もりが、とても心地よかった。 眠ろう・・・この温かさを感じながら・・・。 深い眠りに落ちよう・・・。 Fin 後書き ふぅ・・・やっと書き終えました。 さてと・・・折角出てきた美亜がまったくいかせなかったのが、残念でした。 ここで、紹介をしておきましょう。 美月 美亜 美奈の従姉妹で顔立ち、姿は美奈と一緒。 唯一外見で違うところは、美亜の髪の毛は黒髪。 性格は美奈とは正反対で、活発、強気。 何時かは、彼女がメインのストーリーをかきたいです。 多分、次に書く話も新しいキャラが出てしまうでしょう。 KEN
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